第7章 君は陽だまり
「蜜璃ちゃんがさっき言ってた伊黒さんって言うのは柱の方よね?」
「そうよ!すっごく素敵な人なの!」
今日再会したばかりだというのに伊黒さんという方が話の中によく出てくるので、気になって聞いてみると間髪入れずに少し頬を染めて褒め称える蜜璃ちゃんの態度に思わず笑みが溢れた。
靴下をくれるような間柄だからひょっとして…。
「まさか…"良い人"なの?」
「や、やだぁーーー!ほの花ちゃんたらぁーーー!!」
──ドスッ
揶揄ったわけではない。ただ私はよくある恋の話的な感じで聞いてみただけ。蜜璃ちゃんにも良い人がいるなら素敵だなぁって思ったから。
だからまさか鉄拳が飛んでくるとは思わず、受け身を取れなかった私は蜜璃ちゃんのとんでもない力でその場に転がった。
それはもう見事に。
「キャァァッ!ほの花ちゃーーん!ごめんなさい!ごめんなさぁい!!」
「だ、大丈夫!ビックリした。あはは…。」
「怪我してない??どこも痛くない?」
「大丈夫大丈夫。」
そうは言ったものの立ち上がろうと思い、足に力を入れると鈍い痛みがして顔が歪む。だが、骨折とかそんな重症なものでもないし、すぐ治りそうな捻挫程度だろう。
薬師をやっていると簡単にならすぐに診断がついてしまうので大して気にせず立ち上がると、蜜璃ちゃんが涙ぐんで肩を支えてくれる。
「足?挫いたのね?!ごめんなさい、本当にごめんなさぃぃ!私ったら宇髄さんに叱られてしまうわ…!」
「大丈夫大丈夫!それくらいで怒ったりしないって。」
「でも、…」落ち込んでいる蜜璃ちゃんを宥めていると「甘露寺?」と彼女に声をかけた青年が目に入った。
その姿を見た瞬間、蜜璃ちゃんが「伊黒さーーん!!どうしようー!」と彼に向かって言ったことで私は意図せずに"伊黒さん"を知ることになった。
この人が伊黒さんかぁ。
よくみると蜜璃ちゃんよりも身長が低いようなのに第三者の私から見ても彼女を大切に思ってるいるんだなぁと分かるような優しい視線で心が温かくなった。
こんなにこの身長が憎くてたまらなかった時期もあったけどこういう二人をみるとあの経験も決して無駄じゃなかったと思える。