第34章 世界で一番大切な"師匠"※
外に出て、どれくらい経っただろうか。
恐らく十分も経っていないと思うが、自分の中では一時間にも二時間にも感じられるほど。
玄関から道までの間を何度も何度も往復をして、耳を澄ますの繰り返し。
そろそろ警備にいかなければいけないと言うのにまだ帰ってこないほの花に若干苛つき出した頃、漸く聞き覚えのある足音が聴こえてきた。
足音は二つ。
まさか男が送ってきたんじゃねぇだろうな。
俺は足音の正体を見るために道に出ると塀に背中をつけてその音が聴こえてくる方向へ厳しい視線を向けた。
しかし、近付いてきたその足音が思ったよりも軽い足取りだったので、男じゃないと言うことが分かり、ホッと胸を撫で下ろした。
苛立ちを隠せないでいた心が急に深呼吸するかのように晴れやかな気持ちでいっぱいになると、暗闇の中からほの花の声がした。
「わー…、怒ってるかなぁ…」
怒ってるに決まってるだろ?
馬鹿なのか、お前は。
連絡もせずに遅くなって心配かけた罪は重い。
仁王立ちをしてその足音を出迎えるためそちらを見ていると、俺の姿を確認したところでほの花の足が止まった。
そして、その隣にいた足音も止まると、恐々とした表情のほの花の横にいたそいつが口を開くまで暫しの無言がその空間に広がった。
「あら、天元じゃない。どうしたの?」
「まさかお前も此処に帰ってくるとはな。何の用だよ。」
「ほの花の愚痴を聞いてたら遅くなっちゃったのよ。だから泊めてくれない?ほの花の部屋でいいわ。一緒に寝るから。」
「…その前にお前らがどう言う関係なのか言え。家に入れるかどうかはそれからだ。」
俺の言葉に肩を竦めるほの花と違い、瑠璃は堂々としたもんだ。
簡単に心音で悟られないのはくのいちの中でも瑠璃は特に優秀だったからだ。
「…どう言う関係って…友達よ?」
「いつ何処で友達になった。お前は里にいたはずだろ?」
「そうよ?あんたを訪ねて此処にきた時に会ったの。というか何言ってるの?つい最近のことじゃない。ボケちゃったの?」
「る、瑠璃さん…!」
慌てて瑠璃を制止するほの花に俺はコイツが記憶喪失のことをバレてはいけないと慌てているのが分かる。
必死になって首を振っているほの花だが、もう隠し通せないぜ?