第34章 世界で一番大切な"師匠"※
私は今の状況を事細かく話した。
しのぶさん達彼の同僚も協力してくれていること
私には元恋人がいて亡くなったこと。
その時に半狂乱になった私を庇って頭を打って記憶が一部消えてしまったことにしていること
奥様達、正宗達も記憶を消してしまっていること
協力してくれるという瑠璃さんに感謝をしつつ、今の状況をちゃんと理解してもらうために。
「…なんとなくわかったわ。雁字搦めじゃない。
あんたが始めたことではあるけど…さっきは、言いすぎたわ。」
「え、いや!私が悪いんですよ?!それは分かってます。」
「そうよ?ほの花が悪いけど、でも…あんたが一人でこの雁字搦めの状態で耐えてきたことをちゃんと知らないのに言いすぎたわ。」
瑠璃さんは何も悪くないのにそう言って謝ってくれるものだから鼻の奥がまたツンとしてしまった。
嬉しくて、だ。
分かってもらいたいだなんて思ってない。
それほどのことをしている自覚はあるから。
でも、彼女はそれでも私を気にしてくれてる。それが嬉しかったのだ。
「…大丈夫です!今日話を聞いてもらっただけでめちゃくちゃ肩の荷がおりました!あとは…宇髄さんをその時まで私とのことを忘れていてもらうだけです!」
意気揚々と拳を握りしめる私を見て瑠璃さんはため息を吐いた。そして、薄々私も感じていたことを言葉にした。
「…そこが一番難しいと思うんだけどね。思うに…天元の体があんたを愛していた頃の記憶が残ってるのよ。」
そう。それは宇髄さんの脳の記憶ではない。体に染みついた記憶だ。
たまに彼は昔の宇髄さんを彷彿とさせるようなことを言ってくる。
今回もそうだ。
善逸に嫉妬のような感情を見せたり、私の元恋人のことを気にしていたり。
それは恋仲だった時の宇髄さんのような反応だ。
「…やっぱり、そうですよね。」
「ええ。だから、今から行ってあんた達が師弟関係だったことを、私もしっかり伝えるわ。ただ一度感情が溢れ出すとそれは誰にも止められない。本人にも、ね。」
「…わかりました。話を合わせますのでどうしたらいいですか?」
家までの帰り道、私と瑠璃さんはこれからの口裏合わせのために脇目も振らずに話し込んだ。