第34章 世界で一番大切な"師匠"※
私を射抜く目には初めて魂が宿ったような気がした。
ほの花の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
一連のこれをやめる気はないみたいだが、それだけではない。ちゃんと前を向いてる。
「…そう。…仕方ないわね。協力してあげる。明日には帰るけど、今日は泊めてもらおうと思ってたの。一緒に帰りましょ?天元への言い訳考えながら。」
「…る、瑠璃さん!良いんですか?!」
「良いも何もそうしなきゃ駄目でしょうが。作戦を完遂させるためには。」
いま、私の協力はほの花にとって必要不可欠のはず。
私がそういえば目を輝かせて嬉しそうに笑うほの花はいつもと同じ。
先ほどまでの自信なさげでウジウジしていた彼女では無い。
天元が好きなのはこの顔よ。
そうでしょ。天元。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
お礼を言いながら勢いよく飛びついてくるほの花を呆れた目で見つめてやるが、もうそこに負の感情はない。
この子がやってることも恐らく、必要不可欠なことだったのだろう。
そうでなければほの花は此処まで思い詰めなかった筈だ。
しかしながら、辺りは真っ暗。
とりあえず帰らなければ、ほの花が怒られるのでは無いかと思い、「帰りましょ?」と促す。
私の言葉に元気よく頷くほの花を横目に気になっていたことを聞いてみた。
「ところで何であんなところで天元に腕掴まれていたのよ。喧嘩してたの?」
そもそも天元は記憶がない筈。
それなのに私は彼女から記憶を消したと言われるまで、二人のあの時の様子を見て、いつもと変わらないとすら感じていた。
天元は記憶がない筈なのに、ほの花を見る目が変わらないような気がしたのだ。
「いえ、あの…恋人がいたと言うのをうっかり話してしまっていたんですけど、そのことをどんな男だと聞かれていました。」
それを聞いて確信した。
あの男はほの花を愛してるのだと。
記憶はないかもしれない。
だけど、天元の体はほの花を愛しているのを記憶している。
あれは無意識下の気持ちが溢れていた証拠。
でなければ…あんな目でほの花を見ない。
あの時の目は愛している女を見つめる目だった。