第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「……そういうこと…。わかったわ。」
瑠璃さんが頷いてくれたのでホッとして顔を緩めて彼女の顔を見上げた瞬間、私の頬に衝撃が走った。
──バッチン
あまりの予想外の衝撃に壁に体を打ち付けられたかと思うと、ジンジンと痛い頬に目を瞬かせる。
「…え、い、いた…」
「痛いでしょうね。どう目が覚めた?」
「え?!私起きてましたよ?!」
「起きてないわ。寝てんでしょ?!また叩かれたいの?!」
瑠璃さんのあまりの剣幕に私は体を震わせた。
怒るのは無理はない。
彼女は私にとても良くしてくれた。姉のように慕っていた。
もう此処までか…と思いかけた時、下を向いて唇を噛み締めていた私をふわりと何かが包み込んだ。
「え…、る、瑠璃さん?」
「馬鹿よ、大馬鹿者よ。あんた!何で自分の幸せ手放すの!!馬鹿じゃないの?!悲劇な女を演じたかったわけ?!」
「…そ、そうじゃない!ただ…!宇髄さんに死んでほしくなくて…!」
「じゃあ、天元の気持ちは?!あんたのことを愛してた天元の気持ちはどうなるの?!あんたのことを誰よりも愛していた!それなのにあんたは自分の願いのためにそれを踏み躙ったのよ。」
何も言い返せなかった。
そりゃあそうだ。
だって彼女は正論を言っている。
「だ、だって…!嫌だったんだもん…!自分の目の前から人が居なくなるの…そんなのもう見るの嫌だったんだもん…!」
「何で死ぬって決めつけんのよ!馬鹿なの?!未来は変えられるの!変えるために努力するのが人間でしょうが!何のために鍛錬してんのよ!」
「でも、その鍛錬してる人でも…死んでしまって…!」
「だから何?!それで天元も死んじゃうー!やだー!記憶消そうー!?ですって?ふざけんじゃないわよ!この馬鹿!ウジウジしてんじゃないわよ!」
すると今度は額にバチンと衝撃がきた。
目の前にいる瑠璃さんの指が額に向けられているのを見るに、額を指で弾かれたのだろう。
小さな箇所への集中的な攻撃は地味に痛い。
私が頬に次いで、額に手を寄せた瞬間、空いた頬を今度はグリッとつねられた。
「イテテテテテ!痛いですーー!!」
「煩い!目が覚めたら離してあげるわ!この馬鹿ほの花が!」
瑠璃さんからの攻撃を避けることもできず、ただただそれを受けては言い返すを繰り返しているとすっかりあたりは橙色に染まっていた。