第34章 世界で一番大切な"師匠"※
やばい
やばい
やばい
全私がやばいと言っている。
宇髄さんが珍しく私と恋人のことをやたらと聞いてくるのでどうしようかと思っていたら、声をかけられた。
その声は聴き覚えがあって、尚且つ大好きな人のそれだったから顔は綻んだ。
でも、それは一瞬だった。
だって宇髄さんは私と瑠璃さんの関係性を知らない。要するに…
(…最悪だ…!)
私は瑠璃さんの登場に呆気に取られている宇髄さんの隙をついて彼女を抱えて大急ぎで逃げ出した。
恋人のことをこれ以上聞かれるのもまずい。
でも、瑠璃さんのことがバレるのはもっとやばい。
「ちょ、ちょっとぉ!ほの花?!どうしたのよ?!離しなさいよ!」
「瑠璃さん!お願いします!黙ってついてきてください。一大事なんです!」
「一大事?天元置いていっていいわけ?まさか喧嘩でもしたの?私がアイツを叱ってあげようか?」
彼女を抱えて走りながら喋るのは物凄く体力を消耗するはずなのに、流石最近宇髄さんに鍛えてもらっていただけあって体力はついているようだ。
速度は宇髄さんには負けると思うが、どうやら彼は追いかけてこない。
五分ほど走ると慌てて物陰に隠れて、辺りを見渡した。
「あんた、天元を怒らせたの?」
「しっ!静かにしてください…!宇髄さんに見つかったらやばいんです。」
普段通りの大きさで喋り出す彼女に私は咄嗟に口を塞いで人差し指を立てた。
私があまりの剣幕だったのだろう。
ため息を吐きながらも大人しくなった瑠璃さんの前に座ると頭を下げた。
そして、呼吸を落ち着かせると小さな声で話し始める。
私は彼女に…頼まなければいけないことがあるのだ。
「…瑠璃さん。落ち着いて…聞いてくれませんか?」
「何の話よ。私は今落ち着いてるわ。」
「…私、宇髄さんと…お別れしたんです。」
「…は?」
その時の瑠璃さんの顔は忘れられない。
そりゃあそうだ。彼女は私のために身をひいてくれた張本人だ。
彼女にはちゃんと話す義務がある。
だから私は下を向いたまま全てを話した。
宇髄さんと同居人全ての人の私と恋人だった頃の記憶を消したこと
私はただの継子になったこと
だから瑠璃さんとのことは知らないということ
包み隠さず全てを話した。