第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「あー!そういえば何で師匠あそこにいたんですか?」
突き詰めて何としても師匠以外の呼び名で呼んでもらおうと思っていたのに、ほの花は話題をすり替えてきた。
頑なに呼ぼうとしないのは何故なんだ?
俺は呼ばれても怒ったりしないし、呼んで欲しいと言っているのに。
だけどいつもと変わらない笑顔を向けてくるほの花に今はそれ以上突っ込んでも平行線だろうと諦めることにした。
「…あー、お前が…、ちゃんと俺がやった金を使うか確認するために尾行してた。」
本当はそんなことどっちでもいい。
使わなかったのならばほの花に金くらいいくらでもやるし、そんなことはもういい。
確かに渡した時は、何も欲しがらないほの花に不満があったから、胡蝶のところの餓鬼も来るなら其れを口実に全員分渡してやれば使うと思った。
アイツの身につけるものとかも買ってやりたいのに、拒否しかしない。
それなのに嬉しそうに、恋人からもらったという花飾りと耳飾りを付けてるのが負けた気分がして苛立ってしまうのだ。
初めから同じ土俵にすら乗っていないというのに何故こんなことを思ってしまうのか自分でも分からない。
でも、気になるもんは気になる。
それだけだ。
「えええ?!お、お金?あ、ちゃんと使わせて頂きました!みんな喜んでくれました!ありがとうございますって言ってましたよ。師匠ったら男前ですね〜!私まで鼻が高かったです!」
「足りたのか?」
「はい!」
「あの猪野郎めちゃくちゃ食ってたろ。」
「足りました!」
いや、絶対足りてねぇ。
「おかわり」が何回聴こえたと思ってんだよ。
俺は耳がいいんだ。流石にそれくらい分かる。
「いくら足りなかった。」
「え?耳聴こえてますか?足りましたよ?」
「嘘つくんなら明日の鍛錬100倍にする。」
「あ、えと…2杯分足りませんでした。」
肩を落とすほの花だけど、本当にあの喚き散らした時以来、一度足りとも甘えてきた事はない。
少しくらい我儘言ってくれたりしても良いのよ。
ひょっとして蝶屋敷に行く前に「我儘言うな」って言ったのを気にしてんのか?
女に対してここまで気を揉むことなんて初めてだ。
何でこうもコイツはうまくいかないんだ。