第34章 世界で一番大切な"師匠"※
何で…何でって…?
これは私の中の鎧のつもりだった。
そんなこと言えないけど。
師匠と呼ぶことで距離感を保っていたのだ。
宇髄さんと読んでしまえば前の関係性に戻ってしまいそうだったから。
でも…宇髄さんはどうやら不満なのだろう。
どうしよう、少しずつ…。
少しずつ綻びが出てきている気がしてならない。
踏み入れてはいけない一歩を宇髄さんから踏み出そうとしてきている気がする。
思い出したわけではないと思う。
ただ…しのぶさんがいう通り前の記憶が残っていてそれが勝手に脳と身体を支配することがあるのだろう。
駄目
駄目駄目
戻さないと
「あの、カナヲちゃんもしのぶさんのことを師範って呼んでますよ…?あ、ひょっとして師範のが、良かったですか?!」
「ちげぇわ!!アイツが胡蝶のことを師範って呼んでようがそうでなかろうが、アイツらの前ではお前、俺のこと"宇髄さん"って呼んでたじゃねぇかよ。」
「ご、ごめんなさい。馴れ馴れしくしました。お怒りならば謝ります。申し訳ありません。」
「だから、ちげぇって。そうやって呼べば良いだろ?いつも。」
宇髄さん
駄目なの。
ごめんね、駄目なんだよ。
それだと私が耐えられないかもしれないの。
あなたのこと好きすぎて欲が出てしまうかもしれないの。
「えー!!それはできません!継子ならば礼儀を弁えなければ!あれはうっかり出てしまっただけで、普段は師匠と呼んでいますよ。みんなが宇髄さんと呼ぶことが多いので釣られてしまったんです」
「…釣られた、ねぇ。俺が良いって言ってんのにかよ。」
「そんなそんな…恐れ多いですよ。師匠に対して敬意を持って接しなければ神様に怒られます!」
「神様ってよ…。ちぇ…何だよ。」
ごめんなさい、ごめんね?
宇髄さん。
本当は私だって呼びたいよ。
宇髄さんって
天元って
呼びたいよ。
そうやってあなたにくっついて抱きしめてもらいたいよ。
でも、それは二度とできないの。
したら駄目なの。
私たちはただの師匠と弟子なの。
お願い、分かって…?