第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「いや、善逸はいつものことなので…。いちいち気にしていたらキリがないと言うか…」
…ということは毎回アイツに抱きつかれていたと言うことかよ。
それなのにジタバタした後、今は俺の胸に手を突いて距離を保とうとしてくるほの花。
仕方なく身体を下ろしてやると見るからにホッとしたような顔をしたのが気に食わない。
ほの花がどんな奴らと飯を食いに行くのか気になって仕方かった俺は、後をつけて影から見守っていた。
師匠として交友関係を把握しているのは必要なことだからだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
なのに…あの黄頭がほぼ最初から最後まで抱きついていやがったのにずっと腹が立っていた。
ほの花はまだ恋人が忘れられねぇんだから迂闊に触れたりしたら傷つくだろうが。
そう思っていたのに…ほの花は少しも気にするそぶりもなくそのままにして移動し始めるからもう怒りは頂点に達してずっと腹が立ちながら後をつけていたのだ。
耳を澄ませて会話を聞きつつ、鰻屋から出てきたところでもう一度尾行を開始したのに、あの黄頭が再びほの花に抱きついたのを見ると何かがブチっと切れた。
猛烈な速度でそこまで行くとほの花を奪い取った。
そのせいで黄頭が下に落っこちようと知ったこっちゃねぇ。
師匠だと言うことをこれ見よがしに見せつけて抱えて帰路についていると言うのにほの花が暴れるから今に至る。
しかも…どうしても気になることがある。
今思えば何でそうされないのか不思議だった。
「とにかく!善逸はいつものことなので気にしないで下さい!さ、師匠!帰りましょ?」
「お前さ、アイツらの前では俺のこと宇髄さんって呼ぶのに何で俺の前では頑なに''師匠"なんだよ。」
「え…?」
師匠だと言うのは分かる。
でも、師匠と呼ばれることは前から違和感を感じていた。
だからと言って"宇髄さん"というのも何故か腑に落ちないのだけども。
だけど、宇髄さんと呼ばれた時…
俺は嬉しかった。
たかが苗字を呼ばれただけなのに。
ほの花との距離が縮まった気がしたんだ。