第34章 世界で一番大切な"師匠"※
鰻重が来るまでの間、ぼーっとしながら他の五人を見ていたらあることに気づいた。
カナヲちゃんが炭治郎のことを目で追っていることに。
(…気のせいかな?)
炭治郎が伊之助と話していればそちらを向き、善逸と話していれば反対側を向き、更に目が合えば頬を少し染めるその姿に私は口角を上げた。
(…やだ……可愛い…!!)
人の恋路は面白い。
私は今まで友達の恋の相談とか受けたことなかったから勝手に胸が高鳴る。
「…え、だれか心臓の音うるさくない?!なに!なんかあったの?!え、なんで!?」
「…私だけど煩い、善逸。黙って!」
「え、ほの花?!ま、まさか誰か格好いい男がいたの?!ねぇ!どこにいたの?!一目惚れ?!めちゃくちゃドキドキいってんじゃん!!」
「カナヲちゃんとアオイちゃんが可愛くてドキドキしてたの。文句ある?」
「………え。そっち?」
横を見れば少しだけホッとしたような表情のカナヲちゃん。
きっとこの子の心臓も炭治郎を見て高鳴っていたんだろうな。
そんな感覚になれるのが羨ましい。
炭治郎はとても優しいし、カナヲちゃんを大切にしてくれそうだから文句はない!
でも、そんな話一度もしてことなかったからこれは今度、尋問しないとなぁ。
「あー、確かに甘い匂いがするなぁ。鰻の匂いじゃなくてさ。良い匂い。」
「ふふ。炭治郎は匂いでなんでも分かっちゃうね。でも、匂いよりも言葉が大事な時もあるんだよ。覚えておいてね?」
「え…?う、うん。」
そう。
その匂いはカナヲちゃんから出る恋の匂いでしょ?でも、そんな匂いに頼らないで、恋を始めるときは自分の口から好きだって言ってほしいな。
私がもう好きな人に好きだと言えない分。
みんなにはそれぞれ好きな人に思いっきり好きだといってほしい。
二度と言えなくなることだってあるんだ。
それが死だけとは限らない。
善逸も伊之助もいつかは素敵な女の子と幸せな恋をしてほしい。
全員の婚儀に出席したいなぁ。
お父様の婚礼衣装はもう着れないけど、今度里帰りした時にはこそっと着てみよう。
それを着て墓前で見せてあげよう。
それが今、私のできる最高の親孝行。