第34章 世界で一番大切な"師匠"※
湯浴みを終えて部屋に帰ってくると、宇髄さんにもらった麻袋の中身をチラッと見る。
すると、そこには鰻六人分にしては多すぎるほどのお金がたんまりと入っていて顔を引き攣らせた。
いや、柱だし…。宇髄さんに財力があるのは百も承知だけど…奥様だけなら兎も角、継子の友達にまでこんな大盤振る舞いして……いや、大丈夫なんだろうな。
まぁ、みんなは喜ぶかもしれないけど…。
私としては宇髄さんの記憶を消したことでみんなに協力をしてもらったのだから恩返しでもしようと思っていたのに…それはまたの機会にしよう。
麻袋を懐に収めると、鏡台に向かい化粧を施していく。
正直、もう見てくれる人もいないわけだし、化粧なんて面倒なんだけだけど…瑠璃さんに身だしなみなんだからちゃんとしなさいと言われた手前やってないとバレてしまいそうだ。
白粉を叩いて、瑠璃さんがくれた紅を引くと少しはマシに見えるだろう。
ただ純粋な日本人じゃ無い私は少し化粧をしただけでやり過ぎなんじゃ…?というほどに濃く見えてしまうので本当ならあまりしたく無い。
ただでさえ顔立ちが日本人離れしてるのに余計目立って恥ずかしい。
その点、宇髄さんと一緒に歩いてると彼が派手だから気にしないで済んだ。
母の生まれが異国だから仕方ないし、それを咎めるつもりもない。
ただこの国の人たちは異質なものを好奇な目で見ることが多いのでそれを気にしていたのだ。
背が高いことも然り、周りと違うことが恥ずかしくて仕方なかった。
宇髄さんと出会うまで。
派手で男気があって背の高い私のことも全然気にしてなくて、そのままの私を包み込んでくれる優しい彼が私に安心感をくれた。
里にいる時はそこまで自分の容姿が異質だと感じたことはなかったのに、出てくると自分自身が他の人と違う顔立ちにずっと羞恥心を持って過ごしてきた。
だから宇髄さんは心も体も救ってくれた命の恩人。
「さ、行こっかな。」
せっかくくれたのだ。
伊之助あたりはたくさん食べれる!と喜ぶかもしれない。たらふく食べさせてあげよう。
足りなければ私が出せばいいのだ。
ほんの少し色づく程度の化粧をして、私は蝶屋敷へと向かった。