第34章 世界で一番大切な"師匠"※
宇髄さんの追及を何とかかわすと、湯浴みに行くことを許された私は安堵のため息を吐きながら意気揚々とお風呂場に向かった。
が、足音もなく手を掴まれたかと思うと、掴んでいたのはもちろん宇髄さんで何も言わずに彼の部屋に連れてこられた。
突然のことであわあわしながらついて行ったが、そこはすごく久しぶりに入ったので何だか懐かしくてホッとした。
此処が自分の部屋だった頃もあったんだなぁと思うと感慨深い。
しかし、此処の主の宇髄さんはと言うと…
部屋に着いたはいいが、今度は固まったまま動かない。
一体どうしたと言うのだろうか。
「…し、師匠?どうかされましたか?え…まさか今から肩揉みですか?!それならば居間でやりましょう!」
「ちげぇわ!!あー…ちょっと待ってろ。」
最近は肩揉みやら按摩やらをするようにもなったけど、奥様達に誤解されないように居間でやっていた。
部屋の中で継子とはいえ女と二人きりなのは頂けないからだ。
でも、どうやら按摩目的では無いらしくてそのまま箪笥に向かうと麻袋のようなものを持って戻ってきた。
「…これを持っていけ。」
そう言って渡された其れを手のひらに乗せられるとチャリンと言う音が聴こえて目を見開く。
「…え?し、師匠、これって…!」
「持っていけって言ったろ。四の五の言うな。この前胡蝶にも世話になったからよ。残ったらお前にやる。」
ずしっと重いそれは間違いなくお金で、要するに私たちの外食代を宇髄さんが出してくれようとしているということ?
それは申し訳なさすぎる。
というか私が一番年上だから自分の分のお給金は殆ど使わずに残ってるし、ご馳走しようと思ってたのに…!
「いやいやいや!師匠!でも…!」
「うるせぇな。早く湯浴み行けって言ったろ。口答えすんなら明日からの鍛錬は百倍にする。本気だからな。」
「ひ、っ!そ、それだけは…!わ、分かりましたよぉ!ありがとうございます…!」
御礼を言えばひとつ息を吐き、私の背中を押してくる宇髄さん。
「ほら、早くいけ」と言ってくるけど、此処に連れ込んだの貴方なんですけど…と言う文句は言えない。
お小遣いをもらってしまったのだから。
腑に落ちないけど、頂いてしまったものを返したら後が怖いので今回はもらっておこう…。