第33章 世界で一番大切な"継子"※
昨日はどうかしていた。
いや、どうかし過ぎてた。
継子に手を出さないなんて当たり前なのに、俺は一体何をした?
アイツに口付けたか…?
もう夢だったことにしてしまいたい。
ほの花は寝ていたし、もうそう言うことにした方がお互いのためだ。
アイツとは永遠に交わることはないのだ。
朝餉を食べて縁側でぼんやりと茶を啜っていると、聴いたことのある声が聴こえてきた。
(…ほの花…?)
アイツのことを考え過ぎて幻聴が聴こえているのだろうか?と思って、暫く耳を澄ましてみた。
しかし、聴けば聴くほどほの花の声で、その内容が俺に謝るための予行演習でもしているのかやたらと謝り倒している。
小声でやってるのかもしれないが、こちとら耳が良いんだ。
どこから聴こえてくるのか探りながら其処に向かって歩いていくと玄関先で行ったり来たりしながら謝罪の練習をしているほの花がいた。
青くなったり、泣きそうになったり…
頭を掻きむしって途方に暮れたり…
表情がコロコロ変わるほの花に俺は釘付けになって。
普段のほの花は其処まで表情は変わらない。
ニコニコはしてるけど、あんな風に感情を露わにすることはなかった。
それは昨日、俺に対して怒って来た時も。
「…ハハッ…可愛い奴…」
思わず口からこぼれ落ちた言葉に驚くのは自分だった。
ああ、そうか。
俺はアイツの本音が知りたかったのかもしれない。
継子として完璧なのに、それ以外は思い通りにならない世話の焼ける女だと思っていたけど、そうじゃない。
俺は…アイツに甘えて欲しかったのだ。
あの三人のように頼って欲しかったのだ。
たまにふざけたりもしていたほの花だけど、それですら計算し尽くされた完璧なふざけ合い。
アイツの本音ではないと何となく気付いていた。
ああやってほの花の完璧じゃない姿が可愛いと感じるのはそういうことだ。
やたらと真剣に謝罪練習をしているほの花だが、俺は怒ってもいないし、どちらかと言えば俺が謝らなければならない。
ほの花を追い込んだのは俺だ。
音もなく彼女に近づくと、練習真っ最中のほの花に声をかけた。