第33章 世界で一番大切な"継子"※
時刻は九時
朝餉を食べ終えて、診療記録の整理をしようと自室に向かっていたら「胡蝶!!」と聴き覚えのある声に呼び止められた。
しかし、聴き覚えはあるがそれは此処の住人ではない。
更に朝っぱらから此処に訪ねて来たのは記憶に新しいのだ。
今度は何を聞かれるのやらと振り向くと、そこにいた彼は腕に誰かを抱えていた。
考えるまでもなくその人物が誰なのか分かった私は急いで彼に近づく。
「どういうことですか?!宇髄さん!」
「悪ぃ、ほの花が熱出たから頼むわ。」
「熱出たから…って。」
我慢強い彼女が抱えてこられたと言うことはかなり酷いのは言うまでもない。
数日前、いつもならお館様のところから帰ってくる時は必ず寄ってくれていたのに来なかった日があった。
代わりに音花が文を持ってきた。
其処には急遽お館様の屋敷に召集されたこと。
咳止めの処方で間に合わなかったので、数十秒力を使ったことが記されていた。
だけど、それから音沙汰もなくて屋敷にも顔を出さないからてっきり何ともないと思っていた。
治癒力を用いたことによる体調不良で一番最初に頼ってくれるのは自分だと自負していたからだ。
宇髄さんにバレないように蝶屋敷で過ごすのは通例のことだったから。
来ないと言うことは元気に過ごしていると言うことだと勝手に思っていた。
それなのに宇髄さんが連れてきたほの花さんは呼吸は荒いわ、熱は高いわ、顔色は最悪だわ…。見るも耐えない姿。
「いつからですか?」
「多分…一昨日からだと思うけど…。」
と言うことは三日下がっていない。
これは間違いなく体に溜まったものが出ようとしている証拠だ。
「何故もっと早く連れてこなかったんですか!貴方が来れなくともほの花さんに言って此処に来させるべきでした。こんなに悪化する前に!」
熱は確かに解熱剤は効かないし、下がるのを待つしかない。
しかし、夥しいほどの発汗で水分不足は顕著。
脱水症状による発熱も加わっているようだからつらいのは当たり前だ。
こう言う場合は点滴しなければいけない。
家でどうこうできるような問題ではないのだ。
苦言を呈したら曖昧に笑って「面目ねぇ」と言う宇髄さんだけど、彼女を見つめる瞳はやけに穏やかだった。