第33章 世界で一番大切な"継子"※
"飼い犬に手を噛まれた"
それが適切な表現かは分からない。
ただ初めてほの花に反論された。
本音をぶつけられた。
此処は怒るところなのに俺に向かって涙を溢れさせながら訴えかける彼女を見て感じたのは
"嬉しい"と言う感情だった。
初めてほの花が俺に甘えてくれたような気がして怒っているのに、苦しそうなのに、嬉しかったんだ。
息も絶え絶えになりながらも自分だけを見てくれていて、向き合ってくれていることに幸せを感じた。
だからガクンと前のめりに倒れて来たほの花を抱き止めるまで、ぼーっとその姿をきっと嬉しそうに見てしまっていただろう。
彼女はそこまで見ていなかったかもしれないが、間違いなく俺の顔はにやけていた。
しかし、倒れ込んできたほの花は重症だ。
なりふり構わずとりあえず薄手の布団を巻きつけたまま、蝶屋敷に向かうことを嫁達に伝えて猛烈な速度で走って行く。
コイツの訴えは尤もだ。
ほの花は性格的に柱と馴れ馴れしくしたりなんてしないだろうし、贔屓目に見られたとしてもそれに驕る奴ではない。
そんなこと見ていれば分かると言うのに、確かにこの前は言い過ぎた。
こんな風に思い詰めていたなんて思いも寄らなかった。
いつもニコニコして「わかりました!」なんて百点満点の模範弟子だと思い込んでいた。
そんなわけがないだろ。
ほの花だって普通の人間なのだ。
感情だってあるし、時にはこうやって泣き喚きたい時だってある。
師匠の俺がコイツを追い詰めたんだ。
ただの自分の八つ当たりで。
真面目で優しいほの花が反論してこないからって師匠ということを良いことに、自分の考えを押し付けてしまった。
柱と馴れ馴れしくするなと言ったことで、具合が悪いのにそこに行きたくないとまで思わせるとは悪いことをした。
随分と我慢していたのだろう。
甘えてこないコイツに腹が立っていたのに甘えにくい環境を作っていたのもまた自分だったなんていい笑いものだ。
腕の中にいるほの花を少しだけ抱き寄せると小さく「ごめんな?」と言った。