第33章 世界で一番大切な"継子"※
「どうしたんだよ。」
「ほの花さん、ちっとも熱が下がらなくて…!今部屋に行ったんですけど、まだ39度もあるんですーー!!」
「あー、そうか。すぐ行く。」
あの調子じゃその可能性も高いとは思っていたが、須磨も慌てふためく様子を見るに状態が悪化してるのかもしれないな。
隊服も脱がずにそのまま部屋に行くと、布団が上下していてその中にいるほの花が肩で息をしているのが分かる。
「…ほの花、入るぜ?」
そういえば肩がビクッと震えたのを見るに起きてはいるのだろう。
近づいて行けばゆっくりと布団を剥いで、起きあがろうとするので慌てて制する。
「寝てろって。まだツラいか。胡蝶ンとこ今から連れて行ってやるからちょっと待ってろ。」
「し、しょ、おかえりなさ…い。」
「挨拶はいいから。それ着替えて行くぞ。汗だくだろ?アイツらに着替え頼むから…」
「い、行きません!」
「……は?…何で。」
あまりにはっきりと断ってくるほの花に驚いて本当にコイツが言ったのかと二度見してしまった。
思う通りにならない女だけど、命令や指示に反いた事はない。
馬鹿みたいに弟子としては有能だ。
肩で息をしていて明らかにツラそうなのに蝶屋敷には行かないとゴネるほの花の真意を図りかねていると彼女は再び布団を被るとそっぽを向いてしまった。
こんな風に我儘を言うほの花は初めてで、困惑するけどそこに怒りはない。
ただ不思議だった。従順な飼い犬に手を噛まれたようなそんな感覚。
「…ほの花、どうしたよ。行った方がいいって。熱丸二日も下がってねぇんだぞ。」
「ほ、んとに、大丈夫、です。」
「……ほの花、我儘言うなって。」
それは言うことを聞いて大人しく蝶屋敷に行ってほしいという俺なりの優しさのつもりだった。
ほの花のことを考えてやってのことだと思っていた。
「…我儘って、なんです、か?」
ゆっくりとまるで幽霊かのように起き上がった彼女は夜着も着崩れていて、栗色の髪も乱れている。
そして彼女の目は涙をいっぱいに溜めて俺のことを睨みつけていた。