第33章 世界で一番大切な"継子"※
そろそろいいかな、と体温計を腋から外すと無言でそれを奪われる。
奪い取ったのはもちろん宇髄さんでそれを睨むように見るとため息を吐く。
「…とりあえず寝てろ。」
「…はい。すみません。」
「三十九度もある奴がうろうろした上、薬なんか作ってんじゃねぇよ。他の奴に移す可能性だってあるだろうが。」
「…そ、そうです、ね。」
これは風邪じゃないから人に移すことはない…が、そんなことを言ったら余計に困惑させるし、忘れ薬を使う前にも内緒にしていた機密事項だ。
とりあえず布団をかぶろうと手繰り寄せるが宇髄さんにそれを止められる。
「…その前に着替えだ。雛鶴達に来てもらうから着替えろ。あと、飯は粥でも作ってもらうから此処にいろ。いいな?」
「…奥さま、たちにも、…ご迷惑おかけして、すみ、ません…。」
「そう思うなら無理せず寝てろ。いいな?」
その声色はものすごく優しくて結局は宇髄さんの優しさに救われてしまった。
雛鶴さん達を呼びに行ってくれるのか立ち上がった宇髄さんは襖に向かって歩き出したが、何を思ったのか襖の前で立ち止まった。
一向にそこから動かず、尚且つ何も話さない彼に首を傾げる。
しばらく沈黙が流れたのち、宇髄さんの声が部屋に響いた。
「…手のかかる継子だからよ、部屋を替えると…こんな時気付いてやれねぇ。だから…部屋替えは却下だ。夫婦のことをお前が気にする必要ねぇ。いいな。」
それは私が三人の奥様達に相談したこと。
夜の営みの声が聴きたくなくて。
もちろん聴きたくないし、今も出来れば部屋を替えて欲しいと思ってる。
でも、声は真剣だし、その内容から宇髄さんが私のことを考えてくれているのが分かるのが嬉しかった。
今回は治癒力を使ったがための発熱だと分かっているのだから自分の中ではそのうち下がるだろうと分かっていること。
でも、彼からしたら突然高熱を出した継子がそれを隠していたら少しは心配になるのだろう。
「…すみません…。では、お言葉に、甘えて…。邪魔だ、と、思えばいつでも、お申し付け、ください、ね?」
「…うるせぇな。病人は余計な気を遣うんじゃねぇよ。」
そう言うと宇髄さんは部屋を出て行ってしまったけど、私の心は暖かかった。