第33章 世界で一番大切な"継子"※
(…聴き間違いだったのか?)
さっき起きた時に隣の部屋からは朝方と変わらない呼吸音がした。
かなりつらそうだということだけは分かるほど。
狐に摘まれた気分だ。
湯浴みをしながら考えるのは今朝のこと。
触れた額は確かに熱かった筈なのに
見つめるのは自分の手の平
アイツの額に触れたら高熱と共に夥しい汗が付着していた。
そんなすぐに熱って下がるものなのか?
あれから朝餉までの時間なんて僅かだし、仮に下がっていたとしてもあんな這いつくばって移動していたような奴が「元気だった」と言われるのは腑に落ちない。
考えても悶々とするだけなのでこうなったら直接確かめるしかないな。
俺は風呂から出ると急ぎ体を拭くと新しい隊服に身を包み、ほの花の部屋に向かった。
それなのに声をかけて襖を開けるとほの花は調合台の前に座って薬を作っていた。
驚きの表情でこちらを見ているが、次の瞬間には「おはようございます。師匠。」といつもと変わらない笑顔を向けてくる。
しかし、確かに平気そうなふりをしているが、その肩は震えているし、心臓の音がドクンドクンと早鐘している。
(…ンな早く治るわけねぇだろ。ばーか。)
声をかけてくれたほの花に応えることなく彼女の隣に無遠慮に座り込むとそっと額に手を当てた。
手に感じるのは通常であれば感じないほどの高温で、額に手を当てた瞬間顔を引き攣らせながら、目を彷徨わせたほの花にため息を吐く。
「…熱、何度あんの?寝てろって言ったよな?」
「…は、計って、ない…です…」
バレてしまえばもう隠すことはないと言わんばかりに調合台に手をついて肩で息をし始めるほの花を抱き上げると、乱雑に布団を出してそこに寝かせてやる。
体はまた汗だくだし、顔色は普通だが白粉を叩いてうまく隠しているのだろう。
馬鹿な女だ。
「体温計は?どこにあんの?」
「だ、大丈夫、です。計らなくて…!」
「うるせぇな。師匠命令。体温計は?」
命令だと言えば渋々指を差した場所からそれを取り出すとほの花に差し出した。
受け取った体温計を腋に挟むとどちらも言葉を発しなかったために、そのまま五分間も無言の空間が出来上がったのだった。