第33章 世界で一番大切な"継子"※
目が覚めると正午前だった。
隣の部屋と繋がる壁を見つめるとまだほの花の荒い息が聴こえてくる。
(…まだつらそうだな…)
もう既に自分で俺の嫁に頼んでるかもしれないが、暫く看護をしてやった方が良さそうだから俺からも頼んでくるか…。
継子の面倒を見るのも大切な仕事だ。
まずは湯浴みをしたい。
昨日は結局、あんな体調の悪いほの花に湯浴みの準備をさせるなんてことはできなかったので、そのまま寝てしまった。
立ち上がり襖を開けて台所に向かえば、案の定三人が飯の支度をしてくれていた。
「あ!天元様〜!おはようございます!」
須磨がこちらを向いて元気な笑顔を向けてくれると準じて雛鶴もまきをもこちらを見た。
「天元様、湯浴みですか?準備できていますのでどうぞ?」
「お、悪ぃな。」
痒い所に手が届くとはこのことだ。
阿吽の呼吸でやりたいことをやってくれるコイツらは本当に一緒にいて楽だ。
それに比べてアイツは手がかかることこの上ない。コイツらの爪の垢でも煎じて飲ませてやれば大人しくなるだろうか。
しかし、そうだとしても師匠としての勤めは果たさなければならない。
「あー…ほの花がよ、朝方すげぇ高熱で体調悪いみたいだから誰かちょっと看病してやってくんねぇ?手間かけて悪ぃけどよ。」
すると俺の言葉にキョトンとしている三人にこちらが面食らう。
「えー?何言ってるんですか?天元様。ほの花さんなら朝餉の時も元気いっぱいでしたよ?」
須磨のその発言に俺は眉間に皺を寄せる。
(…元気、いっぱいだった…?)
そんな筈はない。
隣りから聴こえてきた荒い呼吸は間違いなくほの花だし、昨日だって高熱だった
…筈だ。
いや、昨日は間違いなく高熱だったと思うが、自分が寝ていたときのことは分からない。
ひょっとしたら下がっていたのかもしれないし、そこは確認もしていないので自信がない。
「…そう、なのか?」
此処まで断言されてしまうと返す言葉もない。
昼餉の前に一度様子を見に行けばいいかと先に湯浴みをすることにした俺は風呂場に向かった。