第33章 世界で一番大切な"継子"※
ハァ、ハァ…
耳に響いたのは誰かの荒い呼吸。
部屋の中には誰もいない。
いくら耳がいい俺とはいえそんな遠くのものは聴こえない。
──ということは…
俺は隣の部屋を見つめると足早に部屋に向かった。無遠慮に襖を開けるとそこには布団の上に蹲るように布団をかぶっているほの花。
このクソ暑いっつーのに布団なんて被ってることが異常だ。
他の住人を起こさないように静かに襖を閉めるとほの花に近付き、布団を剥ぎ取った。
先日外で無防備に寝ていた時とは打って変わり、苦しそうに顔を歪めて肩で息をしているほの花にゾクッと戦慄が走る。
「…っ、おい…、ほの花?しっかりしろ…。大丈夫か?」
優しく肩を揺らしてやると眉間に皺を寄せながらもゆっくりと瞳を開ける。
その虚ろな瞳に自分が映ると何度か瞬きをした後、勢いよく起き上がったほの花。
「ひ、っ、し、しょう、…?!お、っ、かえり、っなさい、ませ…」
よく見たら夜着ではなく、隊服のままの彼女はスカートが捲り上がっているわ、胸元も肌蹴ているわで、最近変な欲求をコイツにぶつけてしまう俺には目に毒だ。
「っ、どうした。体調悪いのか?」
そう言って額に触れてみると物凄い高熱で目を見開くが、突然触れたことに驚いたのか仰反って反対側にぱたりと倒れるほの花。
「おい、お前…ひでぇ熱じゃん。しかも、服着替えろ。汗だくじゃねぇか。真夏にこんな分厚い布団被ってんなよな。」
「で、でも…さ、寒くて…。」
「寒い…?」
こんな熱があるのに?
詳しいことは分からないが、こんな汗だくで隊服も冷たくなっちまってるだろうし、兎に角夜着に着替えて休まないと良くなるものもならない。
「湯浴み…。」
「ああ、するか?」
「へ…?わ、私で、はなく、…っ、し、師匠が…!準備、します、か?」
「………はぁ?!」
コイツは頭が逝ってるな。
どうやらまともな判断ができないらしい。
この状況で自分ではなく、何故俺に湯浴みを勧める?
「ンなこたァいいんだわ!早く夜着に着替えて寝ろ!馬鹿弟子が!」
「ひ、ぃっ…!す、すみませ、…!」
なるべく声を抑えはしたが、怒ったことで小さくなりながらも四つん這いになって夜着を取りに行くほの花にため息を吐いた。