第33章 世界で一番大切な"継子"※
一歩
また一歩
ゆっくりと踏み締めるように歩いているのはそうせざるを得ないから。
産屋敷邸を出てからと言うもの一人になった解放感からか一歩踏み出すごとに体が怠くなっていく。
体は熱く迸り、夏の日差しによるものとは別の熱さに額から汗が流れ落ちる。
今日はそこまで使っていないのに、此処まで熱が短時間に出てきたと言うことは…前の時と同じように体に負債が相当溜まっていたのだろう。
暫くまた高熱に魘されるかもしれない。
蝶屋敷に急ぎ向かわなければ…と歩みを進め始めたところでハッとして立ち止まった。
「…また…怒る、かな…」
蝶屋敷にまた行ってしまえば、否が応でもしのぶさんとお会いするし、彼女を頼らなければいけない。
でも、他の柱に馴れ馴れしくするなと言われたばかりなのに流石に宇髄さん的に体裁が悪いのかもしれない。
私は音柱様の継子だ。
それは間違いない。
「…あとで…文を送っておこう」
止まった足は向きを変えて再び歩き出す。
私の帰る場所は宇髄さんの屋敷。
確かに最近、しのぶさんにおんぶに抱っこといった状態で頼りすぎていた気もする。
良い機会だから今回は宇髄さんの屋敷で何とか耐えよう。
解熱剤は効かないが、どうせ負債が全て外に放出されてしまえば治るのだからわざわざしのぶさんの手を煩わせることはない。
それでも一歩ずつ歩みを進めるごとに怠くなる体は変わらないのだから、屋敷に着いた時には全身が熱で汗だくで肩で息をする始末。
宇髄さんは任務に出かけているのか、彼の気配はしない。
私は心底ホッとすると自分の部屋にコソコソと入ると布団を取り出して乱雑に敷いた。
隊服の上着だけ脱ぎ捨てるとそのまま倒れ込むように布団の上に寝転んだ。
ごろんと天井をボーッと見つめた。
自分で手足に触れてみるとまだ少し指先が冷たく感じたので、もう少し熱は上がるだろう。
「…夏の熱って…一番嫌だな…。暑いし…熱い…」
体は熱くて汗が溢れ出すのと同じくらい外気温が暑くてそれでも汗が止まらない。
前回の時も数日で熱は下がった。
このまま寝てしまいたかったが、しのぶさんに文を書かなけれはならないと思い、這うように座卓に向かうと震える手で何とか文をしたためた。
それを音花に託したことでやっとやりきったと思った私は意識を手放した。