第33章 世界で一番大切な"継子"※
産屋敷様が用意してくれたあんみつはとても美味しかったけど、涙を流しすぎた私のせいで少しだけしょっぱかった。
それでも気にしてくれていたことが嬉しくて涙が止まらなかった。宇髄さん的には産屋敷様にまで馴れ馴れしくして怒られてしまうだろうか。
そんな私を優しい瞳で見つめてくれる産屋敷様はまるでお父様のように包み込んでくれる。
「ほの花…君には本当に世話をかけてしまって申し訳ないね。本当は甘味だけ食べにきてもらおうと思ったのに…結局、薬の世話になってしまった。」
申し訳なさそうにそう言う産屋敷様だけどそんなことを悪いと思う必要は全くない。
どちらかといえば私の方がこんな風に気にかけてもらってありがたい限りだ。
普通の一般隊士ならばあり得ない好待遇を受けているのは間違いない。
甘い白蜜が絡んだ寒天を嚥下すると産屋敷様に向き合って首を振る。
「…そんなことありません。私の方が救われました。産屋敷様のおかげで気分転換ができました。ありがとうございます。」
「…そう言ってもらえて良かった。その後…天元とは相変わらず、かな?」
「はい。ですが、気になさらないで下さい。これは私が望んだことです。今泣いてしまったのはそのことが悲しいからではないです。産屋敷様の想いが嬉しいからです。本当にありがとうございます。」
嘘
本当は宇髄さんとのことが悲しいのもあるけど、そんなことを口に出したら「どの口が言うのだ」と言う後指を差される案件だ。
私が悲しむ資格はない。
お皿に入っていた餡子と寒天を一緒に口に放り込むと最後の一口を堪能した。
冷たいあんみつは徐々に上がり始めた体温を内側から冷やしてくれるようだけど、実際には冷やしてはくれない。
解熱剤すら効かない此れは耐えるしかないし、自分が望んで使ったこと。
それに対して不平不満を言うつもりはない。
湯呑みに入っていた煎茶は少し冷めて飲みやすくなっていたので一気に飲み干すと全てをお盆の上に再び収めた。
「ご馳走様でした。ついでと言ってはなんですが…他のお薬は大丈夫でしょうか?」
「うん。他は大丈夫だよ。咳止めが欲しかっただけなんだ。ありがとう。」
そう言って笑顔を向ける産屋敷様に頭を下げると怠い体を引き摺るようにして彼の屋敷を後にした。