第33章 世界で一番大切な"継子"※
大急ぎで産屋敷様の屋敷に到着すると、いつものようにあまね様に案内される時間も惜しいと思うほどに動揺していた。
こうやって呼び出しをされるのはあのスペイン風邪の時以来のこと。
体調が悪くても私のことをなかなか呼んだりしない産屋敷様にヤキモキしていたのだから、今回体調不良で呼んでくれたのであれば少しだけ嬉しい。
「では、ほの花さん。よろしくお願い致します。」
深々と頭を下げてその場を去っていくあまね様を見送ると産屋敷様に一声をかけて入室する。
「産屋敷様、ほの花です。入ります。」
中に入ると「よく来たね」と言ってにこやかな産屋敷様がこちらを見ていたが、急にゴホッゴホッと咳き込む様子も見受けられたので体調不良なのは間違いなさそうだ。
しかし、その表情はとても穏やかでどこか…少し怖かった。
彼の様子が怖いのではない。
死期を悟っているその様子が怖いと感じたのだ。
人が死ぬ…。
また煉獄さんのように。
そう思うと背中がゾクッとした。
私は慌てて彼の背中に手を当てて咳が落ち着くまで撫でる。最近、この力はその場凌ぎにしかならない。使っても使っても…いたちごっこのように悪くなっていく彼に鼻の奥がツンとした。
口を覆っている手拭いには少しだけ血が付着している。
何処からの出血か分からないが、肺に血痰が溜まっているのかもしれない。
病状は少しずつ緩やかに進行をしていたのは間違いないけど、確実に悪くなっている様を見るのは怖くてたまらない。
ゴホッゴホッと咳き込んだ後にゼェゼェという呼吸音に肺が随分弱っていることは明白だ。
「…すま、ないね…。咳が止まらない、から…咳止めをもらいたくて、ね…」
「承知しました。とりあえず直ぐに咳止めの薬をあまね様にお茶に入れてもらうのでそれを飲みましょう。」
私は一旦、産屋敷様から離れると薬箱から咳止め薬を引っ掴み、あまね様の元に向かった。
暑い日が続くけど、咳止めを飲むならば温かいものと飲むのがいい。
少しでも体に効果があるように。
「あまね様っ!!」
産屋敷邸で響き渡るのは私の声。
早く薬を飲んで欲しい。
薬だって対症療法でしかないけど、それでも穏やかない時を少しでも長く過ごしてほしかった。