第33章 世界で一番大切な"継子"※
夜の夫婦生活の邪魔になるから部屋の移動をしたいだと?
一昨日は未遂だっだし、声は聴かれていない筈だが、ほの花がそんなことを申し出たと言うことは以前、隣の部屋に響いていたと言うことだろうか。
真意の程は分からないが、ほの花が俺たちの夫婦生活に気を遣ってくれていることだけは分かる。
本来ならば部屋を用意してやった方がいいのかもしれないが…モヤモヤと心が疼く。
自分が酷い物言いをした後だからと言ってうっかり避けられるのも嫌だと思っているのだろうか。もし、そうならば何て都合のいい男だ。
ほの花は悪くないのだから謝ればいいものを、それが出来ずに歯痒い思いをしているのがなんとも情けない。
「っ、ゴホッ…、はぁ、はぁ…、な、はぁ?ンなことくらいで替えれるかよ。」
「私たちもそんなこと気にしなくていいと言ったんですけど…天元様に聞いてみると昨日言っていたので聞いてみたんです。」
「…わぁーった。とりあえずアイツには俺からそう伝えるからお前らは気にすんな。あの馬鹿がくだらない遠慮してるだけだろ。」
「わかりました!」と素直に頷くコイツらが物凄く従順に見えて心底ホッとする。
それに比べてあの女は本当に思い通りにならない女だ。
次から次へと俺の気に触ることばかりしやがって…。
まぁ、別に…アイツが悪いわけじゃ、ねぇけど。
不死川と仲良くしてるのを知ったことも
嫁達との夜の営みのためにお膳立てしようとすることも
俺が記憶喪失になってることを知りながらそれを隠していることも
全部、全部…気に入らない。
何故気に入らないか分からないがただただ気に入らない。
お館様の頼みで継子にしているが、本来ならば此処にいるはずのない人間。
そんな女にこんなに心の中を乱されるのは御免被る。
大人しく師匠である俺の言うことだけを聞いていればいいのに。
俺の指示の下、俺だけが知ってて誰のところにも行かずに此処にいればいいのに。
思い通りにならないこの事実だけが重りのように肩にのしかかる。
しかし、その数分後にほの花が部屋を訪れてお館様に呼ばれたと言って屋敷を出て行くと今度は心にポッカリ穴が空いたかのようだった。
本当は
アイツの一挙一動に振り回される自分に
1番腹が立っているんだ。