第33章 世界で一番大切な"継子"※
警備が終わり、朝方に屋敷に帰ってくると薄暗い屋敷の中、ただ一つの部屋から明かりが漏れているのが分かる。
俺の部屋の隣
ということはほの花だ。
真っ直ぐにほの花の部屋に足が向く自分に途中で気付き、慌てて方向転換をする。
無意識だったが、足が勝手に其処に向かっていたことに溜息を吐く。
(…距離を置くと決めただろうが)
そんなことを言ったとしても昨日、あの場所でアイツの世話を甲斐甲斐しく焼いていたのは誰だ?
…俺に違いないがアレはアイツが悪い。
あんなところで無防備に寝ているほの花が悪いのだ。
俺がいなかったらどうなっていたか。
それにしても…アイツは何してるんだろうか。
こんな明け方に明かりがついているなんて何かしている証拠。
音を立てないように自分の部屋の襖を開けるといそいそと中に入る。
耳を澄ませてみればごりごり…という音が聴こえてくる。どうやら薬の調合をしているらしい。
(…まさかこんな時間まで作っているのか?)
没頭すると時間が経つのを忘れるらしいほの花。つい先日もクソ暑い部屋に閉じこもってずっと薬を作っていたと須磨が言っていた。
今もそういう状況ならば一言苦言を呈さなければならないだろう。
いくらなんでももう5時だ。
俺は夜着に着替えると隣の部屋に向かった。
無遠慮に「入るぞ」と言うと返事を聞かぬまま襖を開ける。
その瞬間、ビクッと肩を震わせてこちらを見たほの花は驚いたような顔をしているが、その姿は夜着のまま調合台に向いていた。
「…お前、朝っぱらから何してんの。それとも徹夜でもしたか?」
「し、師匠!おかえりなさいませ!湯浴みしますか?すぐに準備します。」
そう言って立ち上がって部屋を出て行こうとするほの花の手首を掴んで制止させた。
「聞いてんだけど?徹夜したのか?」
「て、徹夜なんてそんな大それたことでは…!お昼寝たくさんしてしまいまして…眠れなかったので薬を作っていただけです。」
大それたも何も夜通し薬を作っていたのならば事実に間違いないだろうに。
自分のことを軽んじているのは昔からなのか?
手を離してほしいと目で訴えかけるほの花に仕方なく掴んでいた手首を離してやった。