第33章 世界で一番大切な"継子"※
不死川さんは何故か最後におはぎをくれたので、それを持って今度こそ真っ直ぐに屋敷に向かって歩き始めたが、すっかり日は暮れてしまっていて辺りは薄暗くなっている。
"お前の門限は7時だからな!"
そうやって宇髄さんに言われていた時代が懐かしい。今はそう言われないことが寂しさを感じるが、その分自由になったと言われれば過ごしやすいのかもしれない。
視界に屋敷が入ってきたことで気を引き締めると、頬を二度とパンパンッと叩いた。
「…よし、帰ろう。」
玄関を開けて「ただいま戻りました」と言えばドドドドッという足音ともに三人の奥様たちが走って来た。
そのあまりの勢いの良さに3歩ほど後退りをしてしまったが、目の前で止まると肩で息をしながら「よかった…」と雛鶴さんが言った。
「…え?」
「もう!!ほの花さんったら…!!遅すぎますよ!!何かあったらどうするんですか?!」
「そうですよぉ!天元様が心配しますぅーー!」
「これからは遅くなる時は連絡くださいね?…はぁ、良かった…!」
あまりに心配そうに言われて、私は唇を噛み締めた。
何て…優しい人たちなのだろうか。
たかが継子のことなのにこんなに心配してくれたなんて…。
宇髄さんに怒られないからいいや、と思っていたけどそれは間違いだった。
この三人だって同じ屋根の下に住む同居人であり、心配はかけてしまうのは当たり前だ。
「…すみませんでした。次からは必ずご連絡しますね。」
「もう!次こんなに遅くなったら天元様に叱ってもらいますよぉ!女の子が一人で夜遅くまで出歩いたら危ないですぅ!」
「…あはは…戦えるのでいいかなぁ、と。」
「関係ないですぅ!絶対に天元様がいたら怒られてますからねぇ!罰として今日は私とお風呂に入ってください!」
だけど…宇髄さんは前ほど心配はしないだろう。
ただ勝手なことをしたのは怒られるかもしれない。
須磨さんがぷんぷんしながらも私の腕を掴んで口を尖らせている。
その姿が可愛くて怒られているのに目尻を下げてしまう。
「…はい!では、須磨さんの背中お流ししますね。」
「ええ?!私もやりたいですーー!!ほの花さんの背中触りたい!!」
「…へ?あ、は、はい。」
不思議な会話を繰り広げながらも私は三人との関係性は記憶を消す前とあまり変わらないことに安堵感を覚えた。