第33章 世界で一番大切な"継子"※
自分がいたところからは全く隣に何があるのかは分からなかった。
微笑んでいる先のものが何なのかわからないが、そこにいたのは俺がずっと見てきた音柱宇髄天元だった。
それにしても炎天下の中、ずっと此処にいるのも骨が折れるので、仕方なく茶屋に涼みに行き、おはぎを買って戻った時には宇髄は姿を消していた。
一体、何がそこにいたのだろうか?と思い、先ほど宇髄がいたところまで歩みを進めると、そこにいたのはほの花だった。
スヤスヤと眠っているようだが、首周りは土が掘り返されていて少しでも冷たく感じられるように工夫されている。
恐らくアイツがやったのだろう。日陰とはいえこんなところで何時間も寝ていれば日射病になりかねない。
「…お前らァ、何で一緒にいねぇんだよ。わけわかんねぇよ…。」
その言葉は暑さに溶けて無くなってしまうが、宇髄がほの花に向けていた微笑みは俺が知ってるコイツらの関係性のものだった。
「…コイツのことが気になってるのに嫁がいることに困惑してンだろォ?」
記憶が無くなっても心がコイツを求めていて、無意識に世話を焼いちまう。
でも、そんな自分にアイツ自身が一番苦しんでる。
不憫で仕方ないが、鬼殺隊として、柱として…宇髄の危うさには気付いていたし、ほの花が決断しなければ…どちらかが死んだ後に後悔することになっていたのは間違いない。
上弦の鬼と戦った煉獄が死を迎えたことでよりそれは露呈した。
柱一人であれば上弦の鬼に勝てないのだ。
上弦の鬼でそれだ。
もし…鬼舞辻無惨と対峙したら?
恐らくそれどころではない。
柱が一人でも多く残っていることは鬼舞辻無惨を倒す上に必要なことだ。
こんなに愛し合ってる二人を引き裂くことになったのを見るのは俺とてツラいが…
「…ごめんなァ?ほの花。」
つらいのはコイツとて同じ。
ただ一人記憶が残っているのにも関わらず宇髄との師弟関係を維持しつつ、日常生活を過ごさなければならない。
嫁との関係が元に戻ったところも見なければならない。
愛し合ってしまった後に逆戻りさせることはどれほどの勇気がいったことか。
ほの花を想うと切なくなってくる。
懐中に入れ込んだおはぎはほの花にやろう。
宇髄との甘い時間は取り戻せないが、甘味で気を紛らわせるのもいいだろう。