第33章 世界で一番大切な"継子"※
「…結局此処…、私ってつくづく未練ったらしい女だわ。」
一人になりたいと思って来たのは宇髄さんと仲違いした後、もう一度彼が私に告白してくれた場所。
あの時はツツジが咲き乱れていて美しかったけど、今は今で夏の空が広がっていて青々とした緑が生い茂っている。
ただ…割と最近、此処でセミと遭遇すると言う事件もあったけど…。
それでも此処は私と宇髄さんとの思い出が詰まっている。
一人になりたいって言ったのは誰なのだ。
全く心の中でなければ総ツッコミを受けることだろう。
結局求めたのは過去の宇髄さん。
彼に愛されていた頃に戻りたいだなんてとんでもない図々しい願いでもあったのか?
暑い日差しを避けるには木陰が一番最適なのはわかるが、この時期はどうしてもセミ達が我が物顔で陣取っているため、一人でその下に行くのは心許ない。
仕方なく木陰を避けて、日陰を探すとそこに腰を下ろした。
風が吹くと幾分、涼しさは感じるけどやはり夏の暑さはじんわりと汗が吹き出してくる。
家に帰りたいけど、今帰ると宇髄さんに鉢合わせてしまうだろう。
顔を見てもらえないのは悲しいし、宇髄さん自身私と距離を置こうとしているのであれば、私もそれに順応するしかない。
家の中にいれば気を遣わせるに決まっているのだから此処で時が経つのを待っているしかない。
しかし、最近考えることばかりで棍詰めていたのだから少しばかり一人でゆっくりする時間も必要だ。
また走り出すためには十分な休息も大切なのだから。
珠世さんにも薬を使った報告をしないといけないけど、それを考え出すと自分のあまりの隠し事の多さに気が滅入る。
正直生きづらい。
本来私は嘘や隠し事は嫌いだし、すぐバレる性質なのに。
里にいる時は誰に取り繕うこともなく、自由に生きてきたけど、一歩外に出ればいろんなしがらみがあるのだと初めて知った。
そんな中でも私は宇髄さんに守られてこの九ヶ月間生きてきたのだと思うと頭が上がらない。
腰を下ろした土の上は幾分か冷たいので、汚れることも厭わずにゴロンと横になってみると、ひんやりとした冷たさが体を包み込んだ。
昨日は睡眠薬を飲んで寝てしまったのだから少しも眠くないはずなのに、日差しを避けようと目の上に手を乗せるといつのまにか眠りに落ちていた。