第33章 世界で一番大切な"継子"※
「今日の分です。炭治郎達の様子を見たら帰りますね。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
しのぶさんに備蓄分の薬を手渡すとすぐにそれを受け取ってくれたけど私を見てつらそうな笑顔を向けてくれる。
違う。
彼女にまでこんな想いをさせるためにこんなことをしたかったわけではない。
これ以上は迷惑をかけられない。
なるべく自分で対処しよう。
恐らく宇髄さんはしのぶさんのところにはこれ以上来ないと思う。
何度来たところで純度の高い嘘の壁が立ちはだかるのだ。
そしてそれは少しの綻びもない。
きっと…嘘だと思っているかどうかは置いといて、しのぶさんに話しても納得せざるを得ない話しかされないと思っていると思う。
だけど、心でそれが腑に落ちない状況で再びその話をしに来ることはない気がする。
「…ほの花さん、一人で思い詰めないでくださいね。あなただって鬼殺隊としても唯一無二の存在です。」
「ありがとうございます…!大丈夫です。では、炭治郎のところに行ってきます!失礼します。」
だいぶ怪我の調子も良くなってきたが、炭治郎が一番重傷だったのは明らかでいま私が様子を見ているのも炭治郎だけ。
善逸は私を送ってくれるほどスタスタ歩けるし、伊之助なんて手合わせしろと煩いほどに元気だ。
みんなそれぞれ回復している。
次を見据えているのだ。
私だっていつまでも宇髄さんのことでウジウジしていられない。
彼が好きなのはきっと一生のことなのだから。
今どうこうしようとしても何もできない。
しのぶさんの部屋を出ると、私は足早に炭治郎達のところに向かった。
少し心を休めたい。
やることだけやったら少しだけゆっくりしたい。
自分を見つめ直して、自分を戒めて、
そうしたらまた明日から頑張るから。
炭治郎の怪我の様子を確認すると、私は忙しいフリをして逃げるように蝶屋敷を後にした。
向かう先は決めていない。
ただ一人になりたかった。
一人でいたかった。
誰にも会わずに一人で空を見上げたかった。
「…天元…、ごめんね。怒ってる?」
私の大好きだった彼はもういない。
「…自分でやったのに…今ものすごくあなたに会いたいよ。」
つらい時苦しい時私を救ってくれたのはいつもあなたの陽だまりのような温かさだったから。