第33章 世界で一番大切な"継子"※
「…わかりました。そんな話をしに此方に来ていたんですね。朝、蝶屋敷に行ってきたとは言っていましたが…予想外でした。」
ほの花さんが憔悴しているのが見てとれる。
当たり前だ。
こんなに早くに宇髄さんが勘付くなんて誰もが予想していなかった。
それほどまでに…
「…あなたのことをそれほどまでに愛していたからですよ。忘れ薬は心には効きませんから…」
そう。
これはほの花さんへの想いの強さ故だ。
愛した女性のことを心が忘れることができなかった。
だからこんなにも早い段階で勘づいてしまったんだ。第一にあの人はしきりに「ほの花は俺の継子か?」と聞いてきた。
それはそれ以上の感情が芽生えている証拠だ。
でも、ほの花さんは私を見て悲しそうに笑って首を振った。
「……帰ってきてからの宇髄さんは様子がおかしかったんです。」
「様子がおかしい?」
「私のことを一切視界に入れませんでした。話してはくれますが、兎に角顔を見てくれませんでした。」
それを聞いて、あの時納得してように見えたのはやはり取り繕っただけだと言うのが明白になった。
もちろん、全てを信じていないわけではないと思うが、信じられない部分があるからその態度に出たわけで。
信じられない部分…否、信じたくない部分なのかもしれない。
それがほの花さんの存在だろう。
彼は抗っているのかもしれない。
ほの花さんを愛してしまいそうになってる自分が記憶を失う前からなのか、突然そう感じたのか分からないから。
だとしたらあまり深入りせずにほの花さんを遠ざけるのも無理はない。
これ以上、好きにならないための防御策だと言ってもいい。
「……あなたのことを忘れようとしているのかもしれませんね。」
「いえ…私が彼に何かをしたと疑っているのかもしれません。」
「…そんなことは、無いと思いますけど?」
「いずれにせよ…、此処でみすみす終わらせるわけには行かないので、先ほど教えてもらったことは遵守致します。」
ほの花さんはそう言うと薬箱から大量に薬を出して私に差し出した。
何故この二人は幸せになれないのだろうか。
鬼の存在が酷く憎い。
大切な人たちの未来まで奪う其れが憎くて仕方なかった。