第33章 世界で一番大切な"継子"※
薬を持って蝶屋敷を訪れると、しのぶさんが駆け足で近づいてきた。
待っていてくれたのだろうか?その顔は真剣そのもの。
「ほの花さん。少しいいですか?私の部屋へ。」
「え…?は、はい。」
今日はこれを置いたら気分転換にフラフラと町をぶらつこうと思っていたが、しのぶさんの頼みは断れない。
私は彼女の後ろを付いて部屋まで向かうと、矢継ぎ早に話し始めたしのぶさんの言葉に絶句した。
「宇髄さんが朝此処にきて、最近自分の身に何かあったか教えてくれと言ってきました。」
「…え…?」
「あなたが関わってることで記憶が曖昧なのは何故だと…」
「……う、嘘…」
まさか、そんな…?
だって…早すぎる。
それに私の前ではそんな素振りを見せていなかった。人知れず怪しんでいたと言うこと?
やはり柱である彼を薬の力で騙そうなんて無理があったのだろうか。
あまりの突然の話で頭がついていかずに茫然としてしまった。
「…私も…あまりに早すぎて言い訳をまだ考えていなかったんですが、たまたま不死川さんがいらっしゃって、咄嗟に言い訳を伝えて下さったので事なきを得ました。」
事なきを得たかは分からない。
そうでなければ、彼の態度はおかしい。
納得をしきれていないから、彼は私に照準を合わせて疑っているのではないか。
しのぶさんは不死川さんがついた嘘のことを全て教えてくれた。
せっかく身を削って嘘をついてくれたのだ。
彼らのためにも私はそれに合わせなければならない。
恋人は鬼に殺されたこと
その時私が半狂乱になって鬼を倒したけど、私を庇って宇髄さんが頭を打って記憶を失ったこと
奥様たちには言わないでおけと不死川さんが言ったということ
どれもこれも私のために考えられた言い訳で聞いた時、少し泣きそうになった。
こんなことならばまどろっこしいことはやめて、堂々と別れを告げて継子をやめたら良かった。
私は結局捨てられなかっただけ。
彼の願いを叶えるなんていうのは言い訳。
ただ私がどんな状況になっても宇髄さんのそばにいたかっただけ。
それを捨てられなかったから忘れ薬を飲ませると言う選択に至った。
全部
全部
私の責任だ。
私が臆病者で強欲だから。