第33章 世界で一番大切な"継子"※
宇髄さんが帰ってきたのはそれから一時間ほどした後。
私たちが食事を終えて、片付けをし始めようとした時だった。
スゥーっと開けられた襖に全員が振り向くとそこにいたのは宇髄さん。
「あれ?天元様、どこに行ってたんですか?探してたんですよ?」
「あー、悪ぃ。ちょっと野暮用で蝶屋敷に行ってた。」
「えー?そうなんですね。朝餉は食べますよね?」
「おー、食う食う。腹減った。」
まきをさんが冷めてしまったお味噌汁の鍋を持って台所に向かうと、いつも通り私の隣に座った宇髄さんが卓に並べられていたおかずに手をつけた。
「師匠、お茶淹れますね」
温かいお茶を淹れるために急須を持つとこちらを少しも見ずに宇髄さんが話し出した。
「あー、いいわ。お前はやることあるだろ?雛鶴、頼んでいいか?」
「え…?あ、は、はい。」
困惑する雛鶴さんがこちらを向いているけど、宇髄さんは尚もこちらを見ることはない。
正直、どう言うことなのかよく分からなかった。
先ほど外で会った彼は恋仲時代の彼のようだった筈なのに、今はこちらを見ることもしない。
(…怒らせちゃった…のかな?)
言葉も態度も怒っているようには見えないが、明らかに私を視界に入れないようにしているのがわかる。
「薬作んなくていいのかよ?昨日も帰ってきてからずっと作ってたじゃねぇか。」
「…あ、はい。そう、ですね。雛鶴さん、片付けだけしておきますね。」
"此処から早く出て行け"
そう言われているような気さえした。
急に突き放されて無理矢理距離ができたような感覚だ。
卓に積まれたお皿をお盆に乗せるとそれを持って立ち上がった。
「では、師匠。ごゆっくり。私は薬の調合をして終わったらそれを届けに蝶屋敷に行って参ります。」
「おー、わぁーった。」
「…稽古は…今日は無しですか?」
「…時間が合えば、な。」
一度も目を合わさない彼に違和感しかない。
でも、距離を置かれたことだけは間違いない。
もちろん柱である彼は日々忙しい。
今日もこれから任務のために出かけるのかもしれない。
「任務に行かれるのですか?」
「…あー、まぁな。」
「…わかりました。間に合わなければお気をつけていってらっしゃいませ。」
何だ、この虚しさは。
自分から望んだと言うのに突き放された距離感に眩暈がした。