第33章 世界で一番大切な"継子"※
「ほの花さーん?」
水浸しになった隊服を脱いで新しい服に袖を通したところで部屋の外から声が聴こえてきた。
「はーい!ちょっと待ってくださーい!」と言いつつ、慌てて残りの服に身を包み、襖を開けるとそこにいたのはまきをさん。
昨日…隣の部屋で宇髄さんに抱かれていたんだ…そう思うと引き攣りそうになる顔を何とか叱咤激励して柔らかく笑ってみる。
「まきをさん。どうしましたか?」
「あの、天元様知りませんか?」
「え…?師匠ですか?先ほど庭で会いましたよ?いませんか?」
「いないんですよ〜。部屋にもいなくて…お出かけされたのかな?朝餉の時間なのにー…」
そう言って顎に手を当てて考えている彼女を見て、私も一緒になって考えてみた。
いない…?
本当に数分前のことだ。
反対側の襖まで行きそこを開けて庭を覗いてみれば、そこには私が水浴びをしていた地面が他より濡れて色濃くなっている以外変わったところはない。
人の気配も感じない。
「…本当ですねぇ…。外を探してきましょうか?」
「あ、いえ!フラーっと散歩にでも行ったのかもしれません。先に朝餉を食べてしまいましょう?天元様にはあとで温め直しますので。」
「そうですか…?それならいいんですけど…。」
私はまきをさんが笑顔でそう言うので頷き、彼女の後について居間に向かった。
朝餉の前に彼が散歩に行くだなんて今まであっただろうか?
いや、今までなかったからと言ってこれからもないとは言い切れないし、そういう気分だったのかもしれない。
それに今、私は彼の恋人でも何でもない。
この詮索するのうなことすら余計なお世話なのだ。
師匠のやることなすことに首を突っ込むのは継子の仕事ではない。
「配膳も終わってしまいましたか?」
「あ、はい!三人もいるのでいつもあっという間ですよ〜。隆元様も手伝ってくれました!」
「…そう、ですか。すみません。お手伝いもできず…片付けは私がやりますので皆さんは休んでいてくださいね?」
後ろから見る彼女の頸に宇髄さんが付ける所有印は見当たらない。
真正面から見て胸元や首にもなかったのを見ると、気を遣って付けなかったのかもしれない。
そんな野暮なことを考えてしまう私は本当に未練たらたらの情けない女だ。