第33章 世界で一番大切な"継子"※
モヤモヤとした気分が晴れることはない。
もちろん納得せざるを得なかったところもあった。記憶喪失になっているというのは間違いない。
ところどころ消えてしまった記憶は考え込んでも出てくることはないから。
でも、それと同時にほの花に対する欲情は俺の個人的な問題なのだと露呈してしまった。
記憶を失う前から若干そう言う思いを感じていたのならば、それを引き継いでいる可能性も高いが、仲睦まじい師弟関係を築いていたとは言っていたが、恋仲だったとかそう言う決定的なことはどちらも言わなかった。
いや、そんなことは言うわけがないか…。
そもそも俺には嫁が三人もいるのだ。
不義を働くなど断じてあり得ない。
アイツらのことは大切な存在なのだから。
ほの花は外見が俺の好みだったのだろう。
だからそれで少しだけ性的欲求を満たしてしまっただけ。
元々好みの外見をしていたのならばそれも肯ける。それに拍車をかけてしまったのが、記憶を失ったと言うことと、彼女の恋人が既に死んでいると言う事実を知ったためだ。
少しくらい性的欲求を満たしてもいいだろうと思ってしまったのかもしれない。
そう考えれば…納得できる。
アイツを庇ってる頭を打って脳震盪なんざ…正直言って情けねぇことだし、柱ならば華麗に助けて自分も無傷なのが格好のいい助け方だろう。
黙ってくれていたのは俺の体面を保つためもあったのかもしれないし、これ以上このことを深掘りする気にもならない。
「…どちらにしても…アイツとは距離を置かねぇと、取り返しのつかないことになる。」
今朝の俺もどうかしていた。
敷布越しとはいえ、近くにほの花を感じたら体が勝手に彼女を引き寄せたのだ。
そうすれば花の匂いがふわりと香ってきて、離したくなくなった。
もっと抱きしめたくてたまらなくなった。
そして…どこか懐かしいと感じたのだ。
でも、それは気のせいだった。
懐かしくなんかない。
俺とほの花はただの師匠と弟子だ。
これ以上のことをしてしまう前に、距離を置かなければ傷つけることになる。
アイツが泣いてるのはどうしても見たくない。
泣き顔よりも笑っていてほしい。
そう思うのは記憶を失う前からの感情なのか?
何もかもわからないけど、今は無理矢理でも納得させるしかないのだ。