第33章 世界で一番大切な"継子"※
よくもまぁ、私も不死川さんも口から出まかせをペラペラと話せるものだ。
此処にきたのが不死川さんで良かった。
一番空気が読める人だし、ほの花さんのことも妹のように大切にしているのだから彼女に不利益を被ることは絶対にしないという安心感がある。
現に嘘八百を並べ立てても、そこには強い意志が感じられてブレない。
此処まで嘘ばかりを吐けば、多少動揺する筈だが、私も含めて揺らぐことはなかった。
それはほの花さんのためでもあるが、目の前にいる宇髄さんが既に彼女に対して好意を持ち始めているのがわかったから。
恋人の存在を知り、明らかに機嫌が悪くなった宇髄さんの顔は恐ろしいほど歪んでいる。
ほの花さんはこの人以外のところに嫁ぐ気はないとまで言っていたけど、万が一次の恋人ができてもこの音柱包囲網を突破しなければ、結婚は愚か恋人にだってなれやしないのではないか?
それほどまでに宇髄さんは既に彼女を特別な目で見始めている。
いや、脳の記憶をいくら消したところで心に残った記憶は消せない。
体がその心に素直に反応すれば、ほの花さんを求めるのは既定路線だった。
だけど、それではこの作戦の意味がない。
決死の覚悟でこの作戦に臨んだほの花さんが不憫でならない。
「ほの花さんのためにもくれぐれもお家の方には内緒にしてあげてくださいね。」
「わぁーってる…。言わねぇよ。」
「こんな朝っぱらから聞きに来るほどの気になるきっかけでもあったのかよ。」
「…一昨日、町で声をかけられた店主がほの花とのことをやけに知ってたんだけどよ、俺にその記憶が無いから不思議に思っただけだ。記憶喪失ってんなら納得した。悪かったな。朝から。」
宇髄さんはこちらを見ることなく、扉に向かって歩き出した。
その背中は少しだけ物悲しい雰囲気につつまれていたけど、本当のことを言うわけにはいかない。
あなたとほの花さんはお互いの命を懸けても惜しくないほど愛し合っていたということを。
知られてしまえば最後、鬼殺隊は再び戦力を失う恐れがある。
ほの花さんが身を削ってまで作り出したこの状況を守るのも鬼殺隊柱としての役割だ。