第33章 世界で一番大切な"継子"※
「ほの花の恋人は…何故死んだ。」
「…鬼に…喰われました。ほの花さんが直ぐにその鬼を殲滅しましたが、まさか自分の恋人が殺されるなんて…と半狂乱になって屋根から落ちてしまったところをたまたま近くで任務があって通りがかったあなたが助けたんです。」
──ということは…一般人か。
鬼殺隊であれば余程クソ弱くなければ鬼に喰われるなんてことはないだろう。
「無理な体勢だったらしくて脳震盪起こしたけど、流石、丈夫だなァ?直ぐに目覚ましたんだけどよォ、記憶だけ無くなってたらしい。此処にほの花が連れてこようとしたみてェだけどお前が断ったんだろ?」
そうだっただろうか?だが、記憶喪失が本当ならば曖昧なのは記憶が混濁しているからだろうし、分からなくても仕方ない気もしてきた。
「ほの花さんはそのことをすぐに私に伝えてくれたんですけど、不死川さんが先ほど言った通り、心配させないように周りには言わないようにしていました。」
結局、俺の求めていた答えが出てくることはなかった。それどころかただほの花がその恋人のことをどれほど好きだったか見せつけられた気分にもなって、口元が引き攣る。
そんなことはどうでもいいことだ。
死んだ恋人をどれほど好きだろうと、もうこの世にはいないのだから想い続けても無駄な話だろ。
前を向けばいいんだ。
アイツにはもっといい男が…
アイツを大事にしてやれる男がいる。
だからそんな男のことは忘れてしまえばいいものを。
それでも聞きたいと思ってしまうのは何故だ。アイツのことを知りたくて堪らないのは何故だ。
「…ほの花はさ、そんなに…好きだったのかよ。その男のこと。」
「それは…私に聞かれても分かりかねます。
ですが…、とても憔悴されていましたよ。それが全てを物語っているでしょうね。」
要するに…ほの花がその男に心底惚れていたということだ。
師匠として継子の恋愛事情に口を突っ込むのはいかがなものかとは思うが、やはり思い浮かぶのはひとつだけ。
ほの花を置いて死ぬような男のことなど忘れてしまえばいい。