第33章 世界で一番大切な"継子"※
「…は?頭、打って一部の記憶が、ない、だと?」
急に後ろから聴こえたのは不死川の声。
ここ最近のおかしな違和感の正体を聴きにきた俺は真っ先に胡蝶に詰め寄ったが、コイツにしては動揺して目線を彷徨わせるものだから俺の身に何かあったのは一目瞭然だった。
ここに来たのは当たっていたと一息ついて、再び追及しようとしたところで背後の扉が開いて不死川がいたのだ。
しかしながら、その口から出た言葉は俄には信じ難い出来事だったが、内容的には納得せざるを得ないようにも感じられて詳しく聞く為、不死川に向き合った。
「ああ。アイツを庇ってな。その時、恋人っつー男も死んだ。家の奴らがそのことを知らないのは俺がそうしろと言ったからだ。継子のせいで自分の夫が怪我して記憶喪失になれば心配もするし、ほの花だってあそこに居づらくなるだろ?」
「……それは、まぁ…確かに。」
「だから俺がアイツに普段通りに振る舞えと指示をした。柱は全員知ってる。その内思い出すかもしれねぇし、お前を困惑させるだけだろうから敢えて伝えなかった。悪かったな。」
「すみません。私もほの花さんが気にしてしまうと思ってすぐに言えませんでした。此処に来るといつもあなたのことを心配していましたから…」
二人にそこまで言われてしまえば、その内容が間違いないのだろうとは思うが…自分が望んでいた回答はそこに入っていないことに顔を顰める。
教えてくれた内容は俺の記憶が曖昧なのは頭を打ったせいだということ。
でも、それはほの花の恋人の死とどう関係があるのか?
それよりも…もっと知りたかった、いや確信が欲しかった答えは得られないまま。
「…なぁ、ほの花は…俺のただの継子だったよな?」
「他に何があるんだよォ?お前、アイツのことは可愛がってたぜェ?」
「…ほの花さんもとてもあなたを慕っていましたし。仲睦まじい師弟関係を築いていたと思いますよ。」
口を揃えてそう言われてしまえばもう言い返すこともできない。
しかし、完璧なその答えを突きつけられたことへの違和感もあるにはある。
でも、二人の心音は決して乱れない。
柱相手に探りを入れようとしても無駄だろう。
俺は小さく頷くと天井を見上げた。