第33章 世界で一番大切な"継子"※
慌てて部屋に戻ったほの花の後ろ姿を見送った後、俺は自分の手を見つめていた。
(この手は…一体、何をした?)
ギリギリ…手を出していないでいいだろうか。
敷布を巻きつけてやるとふわりと香る花の匂いに抑制が効かなかった。
抱き寄せてしまった後のことなど考えずにあまりに向こう見ずな行いだった。
ほの花がああやって鍛錬と勘違いしてくれなければ俺は…何をしたか分からない。
嫁に勃起しなかったことだけでも傷心だと言うのにあまりに酷い自分の行いに頭を抱える。
「…何やってんだよ…、俺は。」
でも…
でもな、ほの花。
お前を抱きしめた時に俺は物凄く安心したんだ。
違和感などまるでなくてこの腕の中にほの花がいないことがもう既に物足りなさを感じている。
「…こりゃ本当に距離置かねぇと…取り返しのつかねぇことになるな。」
俺は大きなため息を吐くと部屋に戻り、隊服に着替えて家を出た。
向かう先はひとつ。
この前から感じていた違和感の正体をアイツなら知ってるかもしれない。
こんな朝っぱらから訪ねてくる奴なんて俺くらいのものかもしれないが、今回は急を要することだ。
直ぐにでもハッキリさせたい。
そうすれば少しは納得できるかもしれない。
蝶屋敷まで猛烈な速度で向かうと、外でほの花の同期の栗花落カナヲが素振りをしていた。
その前に降り立つと目を見開いて怯えたように俺を見上げるソイツに声をかけた。
「胡蝶は?」
「………え、と…。」
「はっきり言え!地味な奴だな、お前!!」
完全なる八つ当たりだ。
ビクッと肩を震わせて目を彷徨わせるカナヲに気まずくなり、こうなったら無遠慮に屋敷に上がらせてもらうしかないかとその横を通り過ぎた。
「朝から私の継子をいじめるのはやめてもらえますか?宇髄さん。」
しかし、縁側で此方を見て微笑んでいる胡蝶の目は笑っていなくて、ため息を吐く。
そりゃあそうだ。
自分の継子は可愛い。大切だと思うのは俺も…一緒だ。
「…悪かった。気が立ってた。話がある。少し良いか。」
「あら、随分と素直ですね?余程私に聞きたいことがあるようですね。どうぞ?」
何を考えているかは分からないが、その口ぶりは俺がここに来るのを知っていたかのようだ。
促されるがまま履物を脱ぐとズカズカと蝶屋敷に上がり込んだ。