第33章 世界で一番大切な"継子"※
久しぶりに感じたその感触に私は体を硬くした。
(…え?…いま、どういう状況なの?)
白い布を巻き付けられたところまでは「ああ、拭いてくれてるんだ」と理解できたが、巻き付けられた状態でふわりと感じるのは人の体温と彼の匂い。
まるで…抱きしめられているようだ。
駄目
駄目駄目
やめて。
「…し、師匠!!離してくださいーー!」
「…嫌だって言ったら?」
「……なるほど、魂胆は分かりましたよ?私を試してるんですね?そういうことならば…!」
私は内腿に隠し持っている小刀を出すと「えい!」と宇髄さんに振り下ろした。
流石に慌てたようだが、軽々避けてしまった彼は流石柱と言ったところか。
「な、っ!あ、ぶねぇだろ?!」
「そうやって寝込み襲われた時にどう対処するか見ていたんですよね?!ふふん!私は内腿に小刀を隠し持ってるんです!」
「だからって師匠に向かって振り下ろすたぁいい度胸だなぁ?」
「え…?試してたんじゃないんですか?」
「……別に…。もういい。さっさと着替えろ。風邪ひくぞ」
そう言うとすぐに離れていく宇髄さんに私はホッと一息吐く。
どういうつもりなのかは分からない。恐らく前の記憶がさせたものなのは確かだ。
現に宇髄さんだって困惑しているようにも見える。これ以上忘れ薬を飲ませるわけにはいかないし、何とか私が取り繕うしかない。
「ありがとうございます!師匠は優しいですね!今度は試す前にどう言う鍛錬か教えてくださいね〜?じゃあ、着替えてきます!」
でも
でもね
久しぶりの抱擁が嬉しくてたまらなかったの。
あなたの温もりが愛おしくてたまらなかったの。
どうしてもこの関係には戻れないけど、宇髄さんの逞しい腕が誰を抱いてもこの温もりだけが私を奮い立たせるの。
背中に宇髄さんの視線を感じながら勢いよく入った自室で私は暫くその体を抱きしめた。
冷たくなってしまった隊服も彼が巻き付けてくれた敷布により温かいし、自分が抱きしめてあげることで少しは慰めになるようだった。
(…すき…だいすき…)
耳の良い彼に聴こえてしまわないように私はその敷布ごと自分を抱きしめながら心の中で彼への愛を何度も呟いた。