第33章 世界で一番大切な"継子"※
眠り薬を飲んだことでしっかり眠れた私は朝起きるとうっかり隣の部屋で繰り広げられていたことを忘れていた。
隊服に身を包み、陽が昇りきらない内にそそくさと庭に出て履き物を履いた時、ふと隣の部屋が目に入り潔く思い出すと途端に下がっていく気分に肩を落とす。
(…そうだった…。今頃部屋の中にまきをさんがいるんだ…)
そう考えると居ても立っても居られない私は宇髄さんから言い渡された鍛錬を始めた。
どんなに嫌なことがあっても明日は来るし、どっちみち乗り越えなければいけないなら無心で何かに没頭するに限る。
昨日は薬の調合をして気を紛らわせ、今日は鍛錬で気を紛らわせる。
たった一回の夫婦の情交で何故こんなにも一喜一憂するのだ。
関係ない。
私には関係ない話だ。
無心で腹筋と背筋と腕立て伏せをしてから打ち込みをそれぞれ1000回ずつ。
最初は500回すらつらかったのに慣れるものだ。
宇髄さんは私の倍の量を倍の速度で終わらせてしまうし、汗もじんわりかく程度で実力の差を思い知らされるけど、できることを私もやるんだ…!という思いで必死についていく。
そんなことをしていれば不思議と頭の中であれほど考えてしまっていた宇髄さんとまきをさんのことを忘れて鍛錬に没頭していた。
太陽が東から昇り、照りつけ出した頃に漸く言い渡された鍛錬を終えると私はぽたぽたと汗がとめどなく溢れて全身びしょ濡れだ。
あんな風にじんわり汗をかくだけの宇髄さんがもはや信じられない。
湯浴みをしに行こうかとも思ったけど、私一人だけのためにお風呂を沸かすなんて勿体無いので、汗だくの私は井戸の水を汲み取ると頭からそれをかぶった。
井戸水は冷たくて火照った体をちょうど良く冷やしてくれる。
「ひゃぁー!つめたーいー!」
こうやって流れていく汗のように私の気持ちも全部流れてしまえばいいのに。
この暑さだ。
一度だけの水浴びでは火照った体を完全に冷やすことなどできない。
私は二度目、三度目…と水浴びをしていると、四度目の水浴びをするために桶を持ったところで後ろから大きな手で止められた。