第33章 世界で一番大切な"継子"※
宇髄さんの後にお風呂に入らせてもらうと少し休憩をして、産屋敷様の調合に向かうため玄関に向かった。
鍛錬後の湯浴みは気持ち良いけど、今からまた夏の太陽の下に晒されるかと思うと気が滅入る。
履物を履くために玄関で座ると、後ろから声をかけられた。
「…あの、ほの花さん?」
振り返った先にいたのはまきをさん。
何やら神妙な面持ちで此方を見ているので立ち上がって向き合った。
「まきをさん?どうされましたか?」
「…ほの花さん、あの…今日の夜、なんですけど…。」
「今日の夜?何かありましたか?」
「天元様に…その、お誘いを受けたんですけど…良い、ですか?…って、私なんでほの花さんにこんなことを?ごめんなさい、忘れてください!!」
顔を真っ赤にして走って行ってしまったまきをさんだけど、私の顔は顔面蒼白だろう。
血の気がひいてるのがわかる。
(…お誘い…?)
頭の中で繰り返してみてもそれはどう考えても夜の営みの誘いに決まっている。
まきをさんがなぜ聞いてきたかは分からないけど、多分彼女に飲ませた忘れ薬は宇髄さんよりも弱いものだし、きっと薄っすら残っている私と宇髄さんが恋仲だった時の記憶をふと感じたのかもしれない。
悪いことをしてしまった。
そんなこと気にさせてしまって。
元々彼は三人の旦那様なのだから気にする必要はないのだ。
(でも…いつかはそんな日が来るとはわかっていたけど…思ったよりも早かったなぁ…)
まきをさんの姿が見えなくなると、再び座り込み履き物を履き始める。
思い返すのは宇髄さんとの性生活。
(…いや、そりゃあそうか。)
こう言ったら何だけど宇髄さんは絶倫だと思うし、私と最後にしてから何日も経っているのだ。
もう溜まっている頃だろう。
誰かとまぐわいたいと思うのも無理はない。
今回はまきをさんだけど、雛鶴さんとだって、須磨さんとだって…、それは行われるのだから。
こんな風に気にしていたらキリがない。
気にしていたら…?
気にする必要がどこにあるのだ。
彼は私の師匠。
目に溜まったのは涙じゃない。
必死に上を向いてそれを堰き止めると薬箱を持ち、玄関を出た。