第33章 世界で一番大切な"継子"※
廊下に出て台所から順に見ていくと、ちょうど厠から出てきたまきをを見つけた。
「まきを!!」
「え…?天元様?どうかしたんですか?」
「ちょっと来い。」
そう言って手を引いて自室に向かって歩いていくと大人しくついてきてくれるので、部屋に入った瞬間に矢継ぎ早に話を持ちかける。
「なぁ、今日の夜…いいか?」
「…へ?夜?何の話ですか?」
まきをは須磨と違って勘の悪い奴ではないのに、キョトンとして首を傾げるのでずっこけそうになった。
俺たちは夫婦だし、夜といえば何のことを指しているかすぐに分かるだろうが。
少しだけ呆れて肩を落とすが、此方は死活問題なのだから簡単に諦めるわけにはいかない。
「だからよ、その…今夜付き合えよ?久しぶりに。」
「……ああ!!そういうことですか!って……え?私と…ですか?」
「は?夫婦なんだから別に問題ねぇだろ?」
「そう…なんですけど……、ああ、いえ、わ、わかりました…。」
どうもその気にならないのか、やけに首を傾げるまきをだけど夫婦生活において夜の営みは別に不思議なことではない…筈だ。
それなのに…確かに俺自身もまきをと同じ違和感を感じている気がした。
難しい顔をしながらも納得して部屋を出て行こうとするまきをだったが、襖を開ける瞬間に後ろを振り向いてもう一度俺を見る。
「…あの、しつこいようですが…本当に私でいいんですよね?」
「あー…、お、おお。……その気になんねぇなら無理強いはしねぇけど…?」
「えと、いや…何か…その…違和感があって…。いえ、大丈夫です。私たち夫婦ですもんね。」
「そう、だな。夫婦、だもんな?」
苦笑いをしながら部屋を出て行ったまきをにやはり違和感は感じる。
夫婦なんだから当たり前だと思う一方、彼女とそういう行為をすることに違和感があった。
それは雛鶴であっても、須磨であっても。
何故だか分からないが、当たり前なのに物凄くいけないことをしているように感じるのだ。
先ほどあんな風に継子を性的対象として見てしまったからまだ動揺しているのだろうか。
誰もいない部屋で俺は大きなため息を吐いて項垂れた。