第33章 世界で一番大切な"継子"※
確かにほの花は忙しいし、夕餉を作らないといけないならば段取りを組まなければならないのは分かる。
だけど、俺だってほの花が飯を作るならばそれを食べたい。鰻なんかよりもほの花が作る飯のが何倍も食べたいと思う。
外食したらそれを食べられない。
正宗達は兄同然の関係性で色恋は感じられないが、心底羨ましい。
「…お前も来れば?そうしたら飯作んなくて済むじゃん。」
「私は大丈夫ですから四人で行ってきてください。」
それなのに、ほら。絶対お前は断るだろ?
頑なまでに俺との距離感を保とうとしている。
「アイツらもほの花が来た方が喜ぶと思うけど?」
「…違うんですよ!今度私、同期のみんなで行くことになってるんです!鰻〜!だから四人で行ってきて下さい!お気遣いありがとうございます!あ、それなら正宗達を連れて行ってあげてくれませんか?お金は私が出すので!」
次々と繰り出される言葉は鉄壁の防御になって俺の前に立ちはだかる。
同期と行くなら何故俺と行かないんだよ?
そんな奴らと俺を天秤に掛けたら俺を優先しろよ。
しかも、交換条件で出されたのは自分の元護衛達を一緒にと言うこと。金まで出すと言うおまけ付きだ。
ニコニコと笑う顔は息を呑むほど美しいのに心は遠く離れている。
これ以上入ってこないでと言われているようにも感じる。
「…たまには師匠に甘えるもんだぞ。可愛くねぇ継子だな。お前。」
「えー?昨日、豆大福買ってきてくれたじゃないですか。何言ってるんですか?変な師匠。」
変なのはお前だ。
いや…俺なのか?
豆大福なんてたった一個買ってきてやっただけ。
それを美味しそうに頬張るほの花を見たらもっと買ってきてやればよかったとどれほど後悔したか。
そんな顔をもっともっと見たいと思ったから。
喜ばせたいと思ったから。
提案したことはすべて断られる。
「あー!わかったぁ!師匠、すごく美丈夫だし、断られたことないから意地になってるんですね?」
「は?意地…?」
「断ったんじゃなくて"遠慮しときます"ってだけです。私のことは気にせずに奥様達を大切にしてくださいね?」
矢継ぎ早にそう言われると湯呑みを持って立ち上がるほの花。
その顔はまるで人形のように綺麗に笑っていた。