第33章 世界で一番大切な"継子"※
宇髄さんに触れられたところが熱い。
日差しの暑さとは違う。
触れられたことが嬉しくて、熱くなってしまうのだ。
だから宇髄さんのそれが離れると途端に冷たく感じる。
「じゃ、今日は終わりな。お前、昼からは?」
「あ、産屋敷様のところに行って来ます。一昨日行った時具合があまり良くなかったようなので回数をしばらく増やそうと思ってます。」
「そうか。気をつけて行けよ?あ、水分補給しろ。」
「ほら」と渡される湯呑みには冷たい麦茶が入っていて受け取るや否やそれを飲み干した。
鍛錬後の冷たい麦茶ほど美味しいものはない。
「ぷはぁー!おいしーー!!」
「ジジイか、お前は。」
そうやって揶揄する宇髄さんだけど、視線の優しさに眩暈がしそうだ。
湯呑みを持ったままそれを見つめているとやかんを持って「もう一杯いるか?」と聞かれるので慌てて自分でそれを持つ。
「や、し、師匠にそんなことさせられません。自分でやります。」
「はぁ?いいからほら、湯呑み貸せ。」
「あ、う、えぇ…、ありがとうございます。」
こぽこぽ…と再び麦茶が自分の湯呑みに注がれると今度はゆっくりとそれを飲む。
気持ち悪いと思われても宇髄さんがいれてくれたってだけでその麦茶が何倍も尊いものに思われてしまうのは惚れた弱み。
「昨日のさ、肉じゃが美味かった。」
「…へ?…あ!ああ!肉じゃが…!」
突然、感想を述べられたのは昨日の夕餉のおかずの話。
残さず食べてくれてはいたけど、敢えて彼と話さないように隣にいた須磨さんがお出かけの話を嬉しそうにしてくれていたのを聞いていたので改めて言われたことに驚いた。
「昨日、須磨が煩くて言えなかったからよ。ありがとな。」
「いやいや!奥様達には及びません!ですが…お口に合ったのであればよかったです。それより須磨さん鰻が食べたいと言ってましたよ?今度は連れて行ってあげてくださいね?」
たかが肉じゃが。凝った料理でも何でもない。
というかできない。
一通りはできるけども簡単なものしか作ったことはないし、奥様達に比べたら足元にも及ばないのにそうやって言ってくれる彼の優しさには本当に頭が下がる。