第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
ひょっとして…と思って多めに作って正解だった。宇髄さんには外で食べて来ていいと伝えたけど、肉じゃがのお鍋を持って居間に向かってる最中に玄関から「ただいま〜」と言う声が聴こえた。
それは女性の声
その家で女は私以外に三人だけ。宇髄さんの奥様達だ。
玄関に足を向けると履物を脱いだばかりの須磨さんが飛びついて来たので、慌ててお鍋を掲げて守る。そのまま受け止めていたら危うく肉じゃがをぶち撒けるところだった。
「あ、す、須磨さん、お帰りなさいませ。皆さんも!」
「いい匂いーー!!ほの花さぁーん!私、お腹ペッコペコ〜!」
天真爛漫な彼女がそう言えば続け様にまきをさんと雛鶴さんと私の隣に並んだ。
「すみません。ほの花さん御相伴に預かっても良いですか?」
「豆大福をお土産に買ってきましたよ!」
まきをさんが大福が入っているだろう包みを差し出してくれたのでありがたくそれを受け取ると大きく頷く。
「もちろんです!作り過ぎちゃって…どうしようかなだなんて思ってたんです!助かります!」
私の言葉にほっとしたような顔をした三人の後ろから玄関に入って来た人物がこちらを射抜いたので、すかさず「お帰りなさい」と声をかければ言葉少なめに頷いてくれた。
肉じゃがも白米も味噌汁も十分すぎるほどあるけど、魚だけあと四人分焼かないといけなかったので、私は居間にお鍋ともらった甘味を置くと正宗達に声をかける。
「宇髄さんと奥様達帰ってきたから此処にいらっしゃったら先に食べててくれない?あと四人分の魚焼いて来るね。」
「手伝いましょうか?」
「ううん!焼くだけだもん!それより四人が来たらお願いね。」
ふたば屋の店主の方の言う通り、豆大福を買って来てくれた宇髄さん達
外食せずに帰って来たけど、宇髄さんが私を見る目が少し変だった気がしたのは気のせいだろうか。
射抜くようなその視線は自分が作った嘘で塗り固められた私自身を内側から壊されるような恐怖感を感じた。
だから逃げるように魚を焼きに来たのだ。
たった数日でこんなに窮地に陥れられるとは思ってもいなかった。
私は何度も深呼吸を繰り返して平常心を保つと、再び七輪の前に腰を下ろして魚を焼き始めた。