第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
夕飯の材料を買って帰ると正宗達が外で木の剪定をしていた
「あ、ただいま〜。今日は私がごはん作るね」
「おかえりなさいませ、ほの花様。」
「久しぶりですね、ほの花様の手作りは」
「宇髄様達は外食ですか?」
「うーん?どうだろう?わかんないけど、お出かけしていた奥様達に作らせるわけにいかないでしょう?」
里にいる時は花嫁修行と称してたまに作ったりしていたから彼らは何度か食べたことがあるわたしの手料理
だけど、もう花嫁になることは無いと言うのが悲しい話だ。
「確かにそうですね。手伝いましょうか?」
「ありがとう。食器とかだけ準備して欲しいかも〜」
いつ帰ってきてもいいように多めに準備だけしておけば、万が一外食せずに帰ってきたとしても事足りるだろう。
手を止めて大進だけがついて来てくれたので一緒に食事の準備を取り掛かる。
野菜を洗って切り始めると徐に大進が声をかけて来た。
「ほの花様」
「んー?」
「何か…つらいことがあったら話してくれていいですからね?」
突然、そんなことを言う大進に顔を上げてそちらを見ると柔らかい笑顔を向けてくれていた。
正宗も隆元も大進も私の兄のような存在だ。
つらい時はよく泣きついたし、慰めてもらって来た間柄。
だから彼がこうやって言ってくれるのは不思議では無いけど…
「…これが最後にします。何度も蒸し返して申し訳ないですが…、恋人の方と死別されたこと…我々にすら言えないほど傷心だったんですよね?」
「あ、いや…う、うん。」
「ツラい気持ちに気付けずに情けない限りですが、我々は共に生き残った者同士。ほの花様のことは幼き日よりずっと見て参りました。それはこれからも変わりません。兄君達の代わりにはなれないかもしれませんが…ほの花様を彼らの代わりにおそばでお仕えします。」
その言葉が肩に重くのしかかった。
こんなに大切にしてくれて、心配してくれる人たちまで私は裏切っている。
「ありがとう」と言う言葉は喉につっかえてなかなか出てこなかった。
彼らにすら忘れ薬を飲ませてしまったことを酷く後悔した。話せば理解してくれたかもしれない。協力してくれたかもしれない。
それなのに私は丸ごと全部ひっくるめて捨ててしまったんだ。