第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「綺麗な三人の女子連れてたけど大丈夫かい?まぁ、宇髄さんに限ってそんなことないか!」
「あ、あはは…!」
合ってるとも違うとも言えなかった
私はただの継子だけど迂闊に返事をすると宇髄さんが今まで不義を働いていたと思われちゃうし、私を捨てた酷い男みたいになってしまう
私がしていることって…本当にいろんな人に迷惑がかかるんだなぁ…
良くも悪くも私はこの町に溶け込みすぎた
宇髄さんと恋人時代を謳歌しすぎてしまっていた
思い出が多過ぎる此処は私にとっても宇髄さんにとっても地雷になりかねないのだ
「豆大福買ってきてくれると思うよ!残り僅かだって伝えておいたからさ!」
「…ありがとうございます!楽しみだなぁ!あ、わ、私…お夕飯の買い物に行かないと!!失礼します〜!」
「お、そっかそっか!いってらっしゃい!また二人で来てね〜!」
「はい…また、伺います。」
もう二度と二人で行くことはないかもしれないけど…、八方塞がり過ぎて息が詰まる
行っても行かなくてもどちらにしても言い訳が必要になるなんて生きてるのがつらくなるほどだ
私は店主の人に会釈をして夕飯の買い出しのために別方向へ歩みを進めた
宇髄さんは私とのことを恥ずかしげもなく周りの人に「俺の女」と言ってくれていた
でも、此処に来てそれが足枷になる
宇髄さんを守りたくても一人の力では限界だ
かと言って薬を町の人全員に飲ませるわけにはいかない
「…もう、やだ…つら…」
前を向こうと思ったのも束の間、すぐにまた試練が訪れるの。
自分で始めたのだから誰も恨めない。
だけどね…、時が解決するのは自分の気持ちだけであって、周りへの配慮は一生付き纏うこと
茨の道だとは思っていたけど、本当に茨だらけだ。
暫く町に行くのはやめるか、少し変装でもしないと…
宇髄さんがスケコマシみたいに思われるのだけは絶対に嫌だから
少し溜まり始めていた涙を手の甲で拭い去ると前を向いて八百屋さんに向かった。
宇髄さんに恩は返すことはあっても、それを仇で返すことだけは絶対にできない。
私は彼に幸せになってほしい
だからこんな茨の道を歩んだのだ