第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
炭治郎はもう看病が必要なほど弱っていないので、私のやることと言えば傷口の消毒と包帯の交換くらいのもの
善逸と他愛もないお喋りをして、伊之助と戯れながら手合わせをすれば私のすることは何もない
本当は一日中此処にいたいくらいだけど、それではしのぶさんに迷惑だし、薬師として常備薬の調合は日課にしないと供給が間に合わない
それほど薬師として頼りにしてもらっているのはありがたい
夕飯の買い物をして家に帰って薬の調合でもしよう
宇髄さん達は今日は夜まで帰ってこないだろうし、夕飯も食べて帰ってくるかもしれない
万が一、食べて帰ってこなかったとしても遊びに行って帰ってきてまで奥様達に食事の支度をさせるわけにいかない
本当は毎日でも作りたいくらいだけど、宇髄さんだって奥様達の手料理が食べたいかもしれないし、出しゃばっていいことはないのだ
すると、後ろから「あれ、ほの花ちゃん?」と声をかけてくれた。
振り返ると、そこにいたのは両手一杯に手荷物を抱えたふたば屋さんの店主のおじさんだった。
「あれー?!こんにちは!どうしたんですか?大荷物!手伝いましょうか?」
「ははっ!どうってことないよ。女子に荷物を持たせるわけにゃいかねぇなぁ。」
あー、多分私のが力持ちだけど、そう言ってくれてるのだから黙って彼の隣を歩いた
「仕入れですか?」
「そうそう!さっき宇髄さん達に会ったよ!珍しくほの花ちゃんは一緒じゃないのかい?って聞いたら仕事だって言ってたけど、もう終わったのかい?」
「え…?!」
しまった…
流石にふたば屋さんを含めた町の人達にまで協力を募っていない。
私は事あるごとに宇髄さんにふたば屋さんに連れて行ってもらった
行きすぎてすっかり名前まで覚えてもらえるまでになった私たちはふたば屋さんの常連だった。
もちろん奥様達と行くことだってあっただろうから全く心配していなかったけど、おじさんからしたらここ最近は私としか来ていなかった宇髄さんが奥様たちといたら不思議に思うのも無理はない
「…あ、そ、そうなんです!早く終わったので…。」
曖昧にそう笑うことしかできないけど、とにかく宇髄さんの話と合わせることでその場を切り抜けるしか方法はなかった。