第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「とりあえず此方に来た時は対処させて頂きますのでご安心を」
しのぶさんのその言葉に心底ホッとした。
やっぱり協力者がいるのは心強い
こんなことに付き合わせることに申し訳ないには変わりないが…
「ありがとうございます…。あ、でも…今日はご夫婦でお出かけされてるのでいらっしゃらないかと思います」
「…そうですか。…大丈夫ですか?」
心配そうに此方を見つめる理由は私の精神状態だろう
好きな人が奥様たちとの関係性を取り戻したから
彼は私のものではなかっただけ
元に戻ったのではない
私とのことは無かったことにすればいい話だ。
そう言い聞かせる私は笑顔を作ると彼女にそれを向ける
「はい!これが望んでいたことです。しのぶさんには暫くご迷惑をおかけしますが…その分、薬師として役に立ちますので何なりと言ってくださいね?!」
私は音柱様の継子
私は産屋敷様の専属薬師
私は鬼殺隊
恋人としての肩書きなんて無かった
最初からなかったんだ
あれは夢だった
私の頭の中はまだそうやって言い聞かせなければいけないけど、それは時が解決する話
しのぶさんに頭を下げてその場を後にすると、炭治郎の元に向かった
やるべきことをやろう
そうしなければ此処にいる意味もなくなってしまう
炭治郎達の病室は離れにある
私はそこに真っ直ぐ進んでいく
迷っていてはいけない
私が決めたことなのだから
病室に着けば、善逸が昨日のことには触れずにいつものように接してくれて、伊之助は私に「勝負しろ!」と突っかかってくる。
それを炭治郎が穏やかな目で見つめて窘めているのはいつもの光景
「ほの花、いつもありがとう。だいぶ痛みが減ったよ!流石、ほの花の薬はよく聞くね!」
「本当?!良かったぁ〜!」
「うん。もっと…もっと強くならないといけないから…。早く治して鍛錬しないと!!」
悲しそうな笑顔の後に決意に満ちた目を向ける炭治郎はもう前を向こうとしている
悲しみの先にあるのはその人次第だ
いつまでも悲しんでいて、つらいつらいと言っていたらその先にあるのは目も当てられないものだろう
炭治郎が前を向こうとする大切さを教えてくれた。