第32章 世界で一番大切な"ただの継子"

ほの花さんが昨日、一人で帰って行ったことを伝えた時の宇髄さんはいつもと変わらないようにしか見えなかった


あの人は…多分、いずれ思い出す気がする
思い出さなくとも…きっとまたほの花さんを愛してしまう気がする


細胞がもう彼女を求めているとしか思えないほどほの花さんに固執している
今はまだ気づかないふりをしているのか、気づいていないのか分からないが…遅かれ早かれ彼はほの花さんを求める時が来る



彼女にそんなこと言えやしないが、無駄骨だったとまでは言わずともこの記憶を消したことは大した効果は無いとしか思えない

それでも一路の望みを懸けて彼女の想いには同調するが…何とも言えない
しかも、恋人をいたことを話した…？
成り行きだとは言え…ほの花さんも無謀なことを…


「…此処に聞きに来るかもしれませんね」


「そうなんです…。でも、亡くなったことになってます…。」


「またまた何でそんなことに…？」



益々話の流れが見えない私はほの花さんに事情聴取を行うことにした
すると、彼女がぽつりぽつりと話してくれた内容に顔を引き攣らせた


いや、ほの花さんを責めることはできない

だって彼女はあの七人をたった一人で相手をしているわけで周りに助け舟を出してくれる人はいないのだから


よく切り抜けたと褒めてあげなければならないくらいだ



「それは大変でしたねぇ…でも、宇髄さんは自分に恋人の存在を伝えてくれなかったことに憤りを感じていそうですね」


「そうなんですよ…。相談しなくとも隠す事もないじゃないですか…？」


「…そうですね。まぁ、とりあえず今回は切り抜けたのであればあとは極力話題を避けるしかないですね。」


幸い、亡くなったことにしてるのであれば、無闇矢鱈に聞いてくることはないだろう

流石に亡くなった恋人のことを根掘り葉掘り聞くなんて配慮に欠ける行いだ


だから恐らく宇髄さんはほの花さんには聞かない
一番出入りしているのは蝶屋敷なのだから消去法で私のところに聞きに来るだろう

彼女もそれを恐れて此処にきたのだから